バンド

吉川 「俺、バンド抜けようと思うんだ」


藤村 「嘘だろ? なんでだ? ひょっとして音楽性の違いか?」


吉川 「いいや、音楽性はビッタシあってる。45歳から50歳までの幅狭い世代にお届けする渋谷系ギターポップデュオ」


藤村 「だったらなんでだよ。一緒に幅狭い世代を熱狂させようぜ」


吉川 「考えてみたんだ。それで、このままのバンド名じゃやってられない」


藤村 「どこがいけないんだよ! 『おしっこ漏らしーズ』の!」


吉川 「いけなくはないよ。悪くないと思う。コンセプトには俺も賛同したし」


藤村 「人間は幼い頃誰しもおしっこを漏らしていた。そして生きて老いた時、またおしっこを漏らす。おしっこを漏らすことを肯定するのは人生を肯定するのと同じだからな」


吉川 「素晴らしいコンセプトだと思ったよ。これしかないって思った。ただね、表記がさ」


藤村 「なにが悪い? 『藤村&おしっこ漏らしーズ』の何がいけない?」


吉川 「いけないだろ。なんで自分だけ分離してるの?」


藤村 「バンマスだから」


吉川 「あのさ、二人しかいないバンドなんだよ? そっちが『藤村&』担当したら、もう俺が全おしっこ漏らしーズの看板を背負わなきゃいけないじゃん」


藤村 「そんなことない。あくまで二人でおしっこ漏らしーズ。ただリーダーとしてわかりやすく名前を出しただけ。俺ももちろんおしっこ漏らしーズだよ」


吉川 「お前のその志はともかくとして、知らない人が見たらさ、藤村以外のメンバー、つまり俺がおしっこ漏らしーズになっちゃうじゃん」


藤村 「もちろんお前もおしっこ漏らしーズだからな」


吉川 「全部は背負いたくない。半々だったからよかった。全部背負うと俺がただ漏らす人みたいになっちゃうじゃん」


藤村 「考えすぎじゃない?」


吉川 「考えすぎじゃない!」


藤村 「わかった。『藤村&吉川とおしっこ漏らしーズ』にするか」


吉川 「いや、それはそれで『え?』ってならない?」


藤村 「なんで? こうすれば対等だろ?」


吉川 「なんというか、藤村と吉川の他におしっこ漏らしーズがいるのかなって期待しちゃうじゃん。どの人がおしっこ漏らしーズなのかな? って」


藤村 「だから藤村と吉川がだよ」


吉川 「俺たちはわかってるけどさ。初見の人が、おしっこ漏らしーズに期待してきたのに藤村と吉川しかいないとなったらちょっとガッカリしない?」


藤村 「そうかなぁ?」


吉川 「そうなんだって!」


藤村 「じゃ、どうする? 第二候補だった『失禁ドリーム』にする?」


吉川 「その名前も捨てがたかったもんな」


藤村 「椎名林檎にインスパイアされてるから。『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』『尿道カテーテル』『失禁ドリーム』と」


吉川 「尿道カテーテルは医療器具だよ、いい感じに連結させたけど」


藤村 「じゃ、そっちにするか。『失王シッキング藤村&失禁ドリーム』で」


吉川 「分離するなよ! しかもなに? 失王シッキング藤村って。俺の断りもなくそんな格好いい名前」


藤村 「失禁の王こと失王シッキング藤村だよ」


吉川 「それはずるいじゃん。分離してるのもずるいし。失禁ドリームのすべてをこっちに背負わせてさ」


藤村 「違う違う。その理屈で言うならお前は失禁ドリームを背負ってるだけだろ? こっちは失禁の王だから。王として失禁に君臨してるわけだから。言ってみれば失禁のすべてがこの背にかかってるわけ」


吉川 「格好良さがあるもん。そんなのがあるなら誰だって失王シッキング名乗りたいに決まってるじゃん。あらゆる王の中で最も憧れるよ」


藤村 「でも大変だよ? 王は。なんせ王だから。失禁界と言えど王には間違いないんだから」


吉川 「確かに。軽々しくなりたいなんて言っちゃいけないね」


藤村 「だったら思い切って『失王シッキング&尿もれ元老院』って名前にするか」


吉川 「それって、俺が尿もれ元老院ってこと?」


藤村 「あくまで二人で。二人で尿もれ元老院だよ。ただ俺は失王シッキングでもあるからお前の負担は大きくなるかもしれないけど」


吉川 「尿もれ元老院か。最高だな!」


藤村 「よかったー!」



暗転

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