能力者

藤村 「辛かっただろ、能力を隠して生きるのは」


吉川 「な、何を言ってるんだ。まったく。頭がおかしいんじゃないか?」


藤村 「そう頑なになるのもわかる。みんなそうだった。ボクたちは孤独だ。でも仲間がいる」


吉川 「仲間?」


藤村 「そう。俺やキミみたいな能力を隠して生きてる者たちは他にもいる。だからと言って何も問題がなくなるわけじゃないけど、でもたった一人で世界に隠れて生きてるよりはずっとマシだ」


吉川 「他にも……」


藤村 「別にその能力を活かしてヒーローになれと勧誘してるわけじゃない。なににならなくてもいい。キミはキミ自身でいるべきだ。俺もそう。正直、いいやつばかりじゃないよ。今まで散々迫害されて生きてたやつもいる。まともに教育を受けられなかったやつもいる。言ってみれば問題児の集まりだ。だけど少なくとも俺らは能力のことでキミを差別しない」


吉川 「本当に、いいのか? ボクは、ボクは……」


藤村 「おいおい、泣くなよ。俺が泣かしてるみたいだろ。キミのことをみんなに紹介させてくれるか?」


吉川 「は、はい」


藤村 「念のために聞いておくけど、水を操るんだよな?」


吉川 「そうです。水というか水分を」


藤村 「おー。すごい。植物の水やりを手伝ってもらおう。こっちにも結構ビックリする能力のやつがいるよ」


吉川 「いえ、動かすことはできないんです。ただ温度を変えて個体、氷にしたり水蒸気にしたりするだけで」


藤村 「なるほど。これから暑くなるから重宝するな。ちなみに俺の能力は……」


吉川 「いいんですか? 人間の体内の水分を一瞬にして凍らせて殺すこともできるんですよ」


藤村 「お、おう。大丈夫。なんだ、そんなことを心配してたのか。確かに強すぎる能力は人に恐怖を与える。仲間にもいるよ。うっかり能力を制御できずに人を殺めてしまったものも。普通に生きるのは難しいさ。だからこそ俺たちが一緒にいればそんな悲劇も防げる。そう信じてる」


吉川 「よかったー。海の水分をすべて一瞬で蒸発させてこの地球の生物を絶滅させることもできるけど。こんなボクでも大丈夫なんですね」


藤村 「え? ん? 海、全部?」


吉川 「海だけじゃなくこの地球すべての水分です」


藤村 「そんな大量だと大変なんじゃない? キミの身体の負担も」


吉川 「あ、全然。量に関しては上限ないんで」


藤村 「あー、そう。絶滅……。そっかぁ。すごいな。ちょっとあの、アレだな。一回待っててくれる? 連絡だけしとくから」


吉川 「あ、はい。藤村さんの能力はどんなのなんですか?」


藤村 「いや、俺のはいいよ。別に。そんな大したことないから」


吉川 「え、聞きたいです。教えて下さいよ」


藤村 「ホント、俺のは、全然だから。いいじゃん別に。ほっといてよ」


吉川 「なんでですかー? 教えて下さいよぉ!」


藤村 「うるせーな。いいだろ、人の能力をそうやって探るんじゃないよ。なに、ちょっと強い能力だからって調子乗ってない?」


吉川 「いや、そんなことないスけど。すみません」


藤村 「しょげるなよ。めんどくせーな。ほら、ここ。指引っ張って」


吉川 「あ、はい」


藤村 「そうするとここから、いい匂いするだろ?」


吉川 「あ、いい匂いっていうか、なんすかこれ?」


藤村 「なんすかじゃねーよ。これが能力だよ。悪いか? いい匂い出すだけの能力が悪いか?」


吉川 「いや、別にそんなふうに思ってません」


藤村 「思ってるだろ。世界を絶滅させるやつからしたらショボいわな。そりゃな! バカにもするわな!」


吉川 「思ってないですよ。可愛い能力だなって思いますけど」


藤村 「それがバカにしてるんだよ! 殺人光線だすやつをみて可愛い能力だって思うか? しょせんその程度だと思ってるから可愛いなんて言えるんだろうが!」


吉川 「どうしたんですか?」


藤村 「俺らん中には、もっとすげえ能力のやつだっているんだからな! ネバネバの汁をだすやつもいるからな!」


吉川 「ふふっ。ネバネバ? なんすかそれ?」


藤村 「その半笑いやめろよ!」


吉川 「あ、すみません。マジだったんすか? 冗談で言ってるのかと」


藤村 「どうせ冗談みたいな能力だよ! お前みたいなすごいのに比べたら屁みたいなもんだよ。屁の能力者もいるしな! だからっつってそういう態度よくないぞ! 本当によくない。全然仲良くなれる気がしない」


吉川 「えー。じゃ、なんて言えばよかったんすか」


藤村 「じゃあじゃないよ。そうやってナチュラルに上から目線なのが腹立つんだよ。もう全然ダメ。お前なんか仲間じゃない!」


吉川 「そんなひどい。こんな辱めは初めてだ。愚かな人類め……」



暗転

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