ヒップホップ

藤村 「ただいまより韻踏まな選手権を開催します」


吉川 「韻踏まな選手権?」


藤村 「我々ストリート生まれの養護施設育ちにとって韻は生活の一部だろ?」


吉川 「苦労したんだな、ヒップホップ関係ないけど」


藤村 「気の合う奴らはみんな友達」


吉川 「普通のこと言ったなぁ。それは全員がそうだよ」


藤村 「そんな俺らはまるでガムを踏むかのごとくついつい韻を踏んでしまう」


吉川 「ガムはそんな結構な頻度で踏まないだろ」


藤村 「小粋なステップを踏むように韻を踏むだろ?」


吉川 「踏まないよ。小粋なステップなんて、あんまり」


藤村 「だから韻を踏むのをいかに我慢するかの選手権だ」


吉川 「普通踏まないと思うけどね」


藤村 「ごきげんなビートに合わせて、全く関係のない言葉を順番に言っていく、その際に少しでも韻を踏んだらアウト。ストリートの掟により『ズッ友』とタトゥを入れてもらう」


吉川 「絶対やだな。なんだよ、そのストリートの掟」


藤村 「いくぜ、藤村・イン・ザ・ハウス。陸上」


吉川 「メガネ」


藤村 「グランド」


吉川 「おでこ」


藤村 「スパイク」


吉川 「くちびる」


藤村 「しびれる」


吉川 「それちょっと踏んでない?」


藤村 「……踏んでしまった。負けだ」


吉川 「自分から言いだしたゲームなのに」


藤村 「え? なに? このゲームの達人なの? プロ?」


吉川 「初めてやったよ。多分これ無限にできる」


藤村 「嘘だろ。人間のボキャブラリーって無限じゃないのに」


吉川 「無限は言葉の綾だけどさ。負ける気がしない」


藤村 「もう一度やろう。藤村・イン・ザ・ハウス。スライド」


吉川 「首筋」


藤村 「助走」


吉川 「Yシャツ」


藤村 「Tシャツ」


吉川 「踏んでね?」


藤村 「トラップに引っかかったー」


吉川 「かけてないよ。トラップ。勝手にオウンゴールしていったね」


藤村 「どうしてそこまで韻を踏まずに生きていけるんだよ。ひょっとして韻踏まな星人?」


吉川 「地球はどっちかというと韻踏まな星人の割合が多いと思うけど?」


藤村 「引っ張られちゃうだろ、言葉に。しかもリズムに乗ってたらなおさら」


吉川 「相手の言葉を聞かなきゃいいんだよ。ボクはただ目に入ったものを言ってるだけ」


藤村 「まじか。そんな必勝法が? いや、だって相手の言葉を聞かないなんて失礼じゃん」


吉川 「そう言われりゃそうだけどさ」


藤村 「ひょっとしてヒップホッパー以外の人類って全員失礼なの?」


吉川 「えらい広範囲を敵に回すなぁ」


藤村 「韻を踏むってのは言ってみれば愛情表現だからさ。踏まない人っていうのは愛を知らずに育ったんだよ」


吉川 「断言したな。すごい持ち上げてるけどダジャレだろ?」


藤村 「愛を知らずに生きてる人間可哀想、カワウソ」


吉川 「つけなくてよかっただろ、今のカワウソは。それが愛情とは全く思えない」


藤村 「だったらお前は今後一生韻を踏んではならないと言われたら飲めるのか?」


吉川 「極端だな。そりゃどこかでダジャレを言うことくらいはあるだろうけど」


藤村 「あるだろうけどアルマジロ」


吉川 「ちょっとごめん。なんか韻を踏む人代表みたいな立場で物申してるけど、その割にはあんまり上手くないよね?」


藤村 「その手は桑名の焼き蛤!」


吉川 「もうそれヒップホップじゃないだろ。江戸っ子みたいになってるじゃん」


藤村 「そんな指摘はヒップホップじゃなくてヒヤリハットだぜ」


吉川 「雑な韻!」


藤村 「俺のヒップホップがイミテイションだと言うお前、そういうお前の方こそ意味がよくわからないぜ!」


吉川 「韻も上手くないしビートにも乗れてない。無理するなよ」


藤村 「俺からヒップホップを取ったらステップとジャンプしか残らないぜ」


吉川 「三段跳びの選手なの?」



暗転

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