ワニワニパニック

吉川 「ワニワニパニックの店なんてあるのか。懐かしいなぁ。ちょっとやってみるか」


ワニ 「うわー! お客さんだ! ぎゃー! お客さんが来たー! どうしようっ!」


吉川 「思ってたワニワニパニックと違ったな」


ワニ 「あ、いらっしゃいませ」


吉川 「ここ、ワニワニパニックができるんですか?」


ワニ 「はい。できますよー。初めてですか?」


吉川 「いえ、子供の頃にやったことありましたけど」


ワニ 「ほー。現地で?」


吉川 「現地? いや、デパートの屋上で」


ワニ 「そんな昔からやってたんですねぇ。うちはほら、例のワニブームを見越してはじめたんで」


吉川 「ワニブームなんてありました?」


ワニ 「あの……100日」


吉川 「あー! なんか、ありましたね」


ワニ 「この話はこれでおしまいです」


吉川 「あ、はい。そんな感じなんだ」


ワニ 「さぁ、どうぞ! 楽しいワニワニパニックですよ」


吉川 「久しぶりだなー」


ワニ 「ではこの巨大ワニが口を開けてるので、その間に頭を突っ込んでください」


吉川 「なにそれ! 見世物のやつじゃん。怖いよ!」


ワニ 「ワニワニパニックですが?」


吉川 「いや、違うでしょ。こんなのワニワニパニックじゃない」


ワニ 「ではこれは何々パニックだというのですか?」


吉川 「いや、そう言われるとワニだけど」


ワニ 「ほら!」


吉川 「ほら、じゃなくて。違うじゃん。ワニワニパニックってのはもっとこう、出てくるワニをハンマーで次々に殴っていくやつでしょ」


ワニ 「ワニを? ハンマーで?」


吉川 「あ」


ワニ 「なぜ? ワニをハンマーで? ワニなにかしました?」


吉川 「いや、そういうゲームで」


ワニ 「罪のないワニを殴ることが娯楽だと?」


吉川 「悪いワニっていう設定なのかな」


ワニ 「人類はワニを痛めつけたいという欲望を持ってるというわけですか?」


吉川 「そういうんじゃなくて。あくまでゲームだから。もぐら叩きみたいなもので」


ワニ 「モグラを? なぜ?」


吉川 「ちょっと圧が強い。あと口が生肉臭い」


ワニ 「お客さんが求めてるワニワニパニックというのは、これのことですか?」


吉川 「あるじゃん! これだよ。なんで凄みをかけてきたんだよ。知ってるんじゃない」


ワニ 「やります?」


吉川 「そう、これこれ」


ワニ 「ハンマーで。可愛いワニを」


吉川 「う……」


ワニ 「いいですよ。どうぞ殴ってください。思う存分。ただこれだけは知っておいてください。ワニは人類皆殺しゲームなんてしないということを」


吉川 「やりづれえ」


ワニ 「ワニは皮を取られたり食べられたり、人間にひどい目にあってますけどだからといって人類をハンマーで殴り続けるゲームなんて決して! 決して! しません」


吉川 「全ワニ代表のメッセージが強い」


ワニ 「開いた口の中に人間の頭が入っていても噛んだりしません。それがワニ・ウェイ」


吉川 「マイ・ウェイみたいに言うな」


ワニ 「どうぞどうぞ。殴ってやってください」


吉川 「いや、やっぱりいいです。あんまりそういう気分じゃなかった」


ワニ 「いいんですか? 人間ってワニを殴りたい生き物なんじゃないんですか?」


吉川 「違います。ワニは友達」


ワニ 「よかった。あなたならきっとわかってくれると思ってました」


吉川 「他になにかゲームないんですか?」


ワニ 「ありますよ。ヒトヒトパニックとか」


吉川 「ヒトヒトパニック? どんなのですか?」


ワニ 「この巨大ワニが口を開いてる中に頭を突っ込んでください」


吉川 「この流れじゃ絶対にやりたくないな!」



暗転

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