緑の手
藤村 「植物は手をかければかけるほど答えてくれる。だからこそ育て甲斐があるんです」
吉川 「そうなんですね」
藤村 「もちろん知識も必要です。野生の植物でない限りは人間が介入するという不自然なことをしているわけですから。しかしそれも含めて世界ということじゃないですか。元からある自然のままに任せるというのは、人間は理性を放棄した動物になるのが一番いいと言ってるようなものですよ」
吉川 「深いですね」
藤村 「我々は命を奪って生きていかなくてはならない。動物だけでなく植物にだって同じことです。一生懸命育った命、それをいただいて生きていくのです」
吉川 「ボクは前にサボテンを枯らしてしまって、向いてないなーなんて思ってるんですが」
藤村 「植物を育てるのに特別な才能は必要ないんですよ。毎日気にかけてあげて、ちょっといつもと違うなと思ったら対処する。それだけです。言ってしまえばそれが愛を注ぐということでもあるんですが」
吉川 「毎日毎日となるとプレッシャーになるというか」
藤村 「習慣になってしまえばそれほどでもないですよ。水分の量、日の当たり具合、温度、そして少し風に当てたりするのも重要ですね。慣れてしまえば数分で終わっちゃう。まぁさすがに私くらいの量を育ててると時間も取りますが」
吉川 「見事なものですねぇ」
藤村 「普通にやってるだけです。欧米では植物を育てるのが上手い人を緑の手を持った人なんて言いますがね。どちらかというと手よりも目だったり気持ちだったりするんですよ」
吉川 「藤村さんは緑の手ですね」
藤村 「いいえ私は緑の手なんかじゃないです。逆に植物をすぐ枯らしちゃう人は赤い手なんて言われるんですよ。よくお前は赤い手だなんて言われます」
吉川 「嘘でしょ。でもこれだけ沢山育ててると枯れちゃうものもあるのか。ボクもプチトマトとかなら育て甲斐があるかも」
藤村 「いいじゃないですか。そういうわかりやすい目的はモチベーションになりますよ。ただこうして育てていくとだんだん目的もいらなくなってくるんですよ。なんというかな、育ってくれること自体が幸せをくれるんで」
吉川 「そういうものなんですか」
藤村 「そりゃ綺麗な花や美味しい果実がとれたら嬉しいでしょうけどね。なにもなくても今日も元気だなっていうだけで嬉しくなっちゃうんですよ」
吉川 「なるほどー。この葉っぱなんか元気ですもんね」
藤村 「それは大麻ですね」
吉川 「た、大麻!?」
藤村 「大麻って言っても世間で思われてるような危ないものじゃないですから」
吉川 「あぁ、違う種類なんですか」
藤村 「大麻は全く健康に被害を及ぼしませんし、酒や煙草なんかよりもずっといいものです。むしろストレスの多い現代社会においては必要な息抜きと言ってもいい。ストレスの方が規制されるべき悪ですから」
吉川 「違わなかった。そっち方面の強い思想が来ちゃった」
藤村 「人類は愚かですから、植物の前にはかないません」
吉川 「そうなんですね。こっちの花は綺麗」
藤村 「それはケシですね。精製に手間はかかりますが相当いいですよ」
吉川 「あー。全体的にそういう感じなんですか。なんか素敵だなって気持ちで見てたんですけど。そっちかぁ」
藤村 「ちょっとやってみます?」
吉川 「なにをですか!? やらないです! 絶対やらないです!」
藤村 「この鉢を植え替えるんですが」
吉川 「あ、そういう? 植物としてのアプローチかぁ。でもボク、サボテンも枯らしちゃう人間だから」
藤村 「最近は多肉植物も人気ですね。これなんかどうでしょう。ペヨーテですが」
吉川 「ぷっくりしたサボテンですね」
藤村 「これの幻覚はキますよー」
吉川 「あー! そういう。どこをとってもそういう感じなの? あっと用事を思い出した!」
藤村 「無理ですよ」
吉川 「え?」
藤村 「蔦に絡まれて動けないはずです」
吉川 「蔵馬みたいなことするな」
藤村 「また血で汚れちゃうな」
吉川 「赤い手!」
暗転
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