象形拳

藤村 「ほう、我が拳とここまで渡り合えるとは。かなり精進したようだの」


吉川 「まだ本気を出してないだろ? 見せてみろよ」


藤村 「龍、虎、熊、蛇を更に凌ぐ形。これぞ秘伝。オポッサム拳」


吉川 「オポッサム。いまいちどういう動物だかピンとこない」


藤村 「俺も知らないが、多分ポッサムを丁寧に呼んだ感じだと思う」


吉川 「知らないのかよ。やるからにはある程度しっかりしたビジョンを持ってやってくれよ」


藤村 「そう言ってられるのも今のうちだ。螳螂拳を凌ぐ形、これぞコバエ拳」


吉川 「蝿拳でいいだろ。なんでもっと弱そうなやつを参照してるんだ」


藤村 「コバエのように舞い、コバエのように増える」


吉川 「せめて刺せよ。ただ増えるだけかよ、煩わしい。そもそも増えるってなんだ」


藤村 「そしてこれが新たなる形。イグアナ拳」


吉川 「タモリがやってるの見たことあるよ。全然新鮮味ない」


藤村 「だったらタモリ拳」


吉川 「言われたからだろ? こっちの言動に引っ張られんなよ。もっと自分を強く持ってやれよ」


藤村 「そしてこれが流行りのタピオカミルクティー拳」


吉川 「ついに生物ですらなくなった。もうそんなに流行ってもないし」


藤村 「この高い構えがオカピの瞬発力を模している」


吉川 「タピオカミルクティーにオカピの成分ないぞ。そんな動物肉入ってたら気持ち悪いだろ」


藤村 「笑ってられるのも今のうちだ。秘伝マウンテンゴリラ拳」


吉川 「やっと強そうなのが来たな。相手にとって不足はない」


藤村 「さらにニシローランドゴリラ拳。ちょっと鼻紋の部分が違うの注目」


吉川 「知らないよ! どっちでもいいだろ。種族はもうちょっと大雑把に捉えて拳にしてくれよ」


藤村 「ニシローランドゴリラのメス拳」


吉川 「雌雄もなし! キリがないから。細かい部分で差異を見出し始めたら戦ってられないだろ」


藤村 「続きまして、タクシードライバーよりロバート・デ・ニーロ演じるトラヴィスが鏡の前でイキる拳」


吉川 「完全にものまねのレパートリーになってるじゃん。熟れた前口上いれるなよ」


藤村 「続きまして、髪を切った次の日教室に入る前ちょっと緊張ちゃう時の様子拳」


吉川 「あるあるネタじゃん。その拳を活用してどう攻撃するつもりなの? 趣旨覚えてる?」


藤村 「鶏、燕、鷹、鶴、そして鳥を模した究極の形。ツイッター拳」


吉川 「あれは鳥なのか? ガジェットを柔軟に拳に取り入れないでよ」


藤村 「さっきの暴力行為をツイートしたからしばらくすれば炎上する」


吉川 「陰湿な攻撃やめろよ。戦ってる最中にそれはないでしょ」


藤村 「中国四千年の歴史の終着駅。これぞラーメン拳」


吉川 「ついに食べ物にまで」


藤村 「長く生きられますようにという願いが込められてる」


吉川 「年越しそばみたいな由来を勝手につけるなよ」


藤村 「そしてセットもお得なハンバーガー拳」


吉川 「お得さアピールされてもこっちはどうすればいいの? うわ、損しちゃった。負けたーってならないだろ」


藤村 「あとこちらはフルーツサンド拳。大変人気となっております」


吉川 「何を売り込み始めたの? 休憩時間なの?」


藤村 「こちらのカレーですと甘拳、中拳、大拳、激拳と選べます」


吉川 「辛さなの? 拳っていうのは辛さの単位に相当することになったの?」


藤村 「今ならお持ち帰りもできますが」


吉川 「なにを? 勝負を持ち越すってこと?」


藤村 「当店のアプリはダウンロードされてますか?」


吉川 「してないよ。ツイッター拳のあたりから時代の波をヒシヒシと感じていたが」


藤村 「アプリの方でポイントが溜まりますよ」


吉川 「ポイント制で戦う勝負なの? この野良試合でそんな競技性が?」


藤村 「そしてこれがとっておきの秘伝。クーポン拳だ!」


吉川 「見切った! 技はそのまま返してやるぜ!」


藤村 「申し訳ありません。クーポン拳は次回からお使いになれます」


吉川 「あ、そうなんすか。すみません」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る