マルチバース

吉川2 「つまり俺はこことは違う世界から飛ばされてきたんだ」


吉川1 「それがマルチーズというやつ?」


吉川2 「そう。そのマルチーズだ」


吉川1 「……」


吉川2 「……」


吉川1 「……マルチバースですね」


吉川2 「そうだ。さすが俺だけあって気まずい圧に弱いな」


吉川1 「ボクだったらすぐにつっこんでましたよ。そんなに意地悪じゃない」


吉川2 「こっちは宇宙人や超能力者とやりあってきたんだ。そんなマドモアゼルでいられるかってんだ」


吉川1 「すごいスレてる。心なしか苦労が顔に出てるし。なんか胃腸も悪そう」


吉川2 「お前はやりあったことないのか? おかしなやつと」


吉川1 「ありますとは言いたいんですが、異星人みたいなのはないです。強いて言えば他のバースから来た吉川とやりあってる今が一番ヤバイ」


吉川2 「もっといただろ? 俺以外にも。変な達人とか、教授とか、博士とか」


吉川1 「えーと。そういえば昨日ウーバーイーツ頼んだんですけど、なんかわざわざ変な道通ってきたのがおかしかったかな」


吉川2 「それはおかしいに入らない。いるだろ、そのくらい」


吉川1 「すごいおじいちゃんだったし」


吉川2 「ウーバーイーツやってるおじいちゃんを悪く言うなよ。道がわからなかったんだろ。もっと空を飛んだりとかそういうのじゃないの?」


吉川1 「そっちの世界、大丈夫ですか?」


吉川2 「大丈夫じゃないよ。大丈夫じゃないから俺が食い止めてるんだよ」


吉川1 「そんな重要な役を」


吉川2 「俺が食い止めてるというのもなんだけど、なぜかおかしいやつの相手を俺がしなきゃいけない世界になってるんだよ」


吉川1 「それはあなたが引き寄せてるとかそういうのじゃ?」


吉川2 「そうなのかな? でもそれならお前だって多少は引き寄せないとおかしいだろ。この世界の俺なんだから」


吉川1 「よく蚊には刺されます」


吉川2 「蚊程度じゃないよ。すごい変人とかは?」


吉川1 「赤ちゃんにも好かれます」


吉川2 「普通過ぎる! なんて秩序と安寧に溢れた世界なんだ。そしてなんで俺はこの世界に呼ばれたんだ」


吉川1 「あなたが勝手に来たんじゃなくて?」


吉川2 「俺の意志じゃない。俺の周りで変なことは何も起こってなかった。どういうことなんだ?」


吉川1 「ボクの周りでは何も変なことは起きてませんでしたけど。あ、気をつけて。蚊が!」


吉川2 「どわーっ! なんだこの巨大な蚊は。荷物運べるドローンぐらいあるじゃん」


吉川1 「蚊です。よく刺される」


吉川2 「普通の蚊じゃないだろ! でかすぎる。なんで平常でいられるんだ」


吉川1 「おかしいんですか? こうなったら殺人ロボの赤ちゃんのレーザービームで落とすしかないな」


吉川2 「なんだよ! 殺人ロボの赤ちゃんて。要素を詰め込みすぎてる」


吉川1 「すごく好かれてるんです」


吉川2 「それは赤ちゃんと称する前にもっと説明するだろ。ただ赤ちゃんですませるのか? 殺人ロボというとびっきりのエッセンスを」


吉川1 「変ですか? そっちの世界には殺人ロボの赤ちゃんもメイドさんもいないんですか?」


吉川2 「ありふれてるの? この世界」


藤村  「まさか別の世界の吉川まで来てしまうとは。ややこしいことになってしまったわい」


吉川2 「お前のせいか! この世界に俺が呼ばれたのは?」


吉川1 「あ、昨日来たウーバーイーツのおじいちゃん」


吉川2 「お前の感度が狂ってるだけだったのか」



暗転

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