雪だるま

吉川 「こちらが雪崩を止めた奇跡の雪だるまがあるそうです。先日起こりました大雪崩は付近を巻き込みこのホテルにまで迫っていました。まだ完全に避難の済んでおらず館内に逃げ遅れた人もいる状況ですんでのところで雪崩が止まったのです。では奇跡の雪だるまを拝見しましょう」


藤村 「はい。こちらが奇跡の雪だるまになります」


吉川 「え? これですか?」


藤村 「はい。まさにこの手前、このあたりで雪崩がピタッと止まったんです」


吉川 「あの、ちょっと待ってください。雪だるまと聞いてたんですが」


藤村 「そうですね。正確に言えば雪像かな。でももうこの辺の人はみんななんか作ったら雪だるまって言ってるから」


吉川 「これは最初からこの形だったんですか?」


藤村 「雪崩のあった時は違いますね」


吉川 「あ、違うんですね。じゃ、誰かのいたずらみたいな……」


藤村 「もっとリアルでした。ちょっと溶けちゃったのかな」


吉川 「もっとリアル。だってこれ、チンチンですよね?」


藤村 「そうですね」


吉川 「雪崩を止めた時はもっとリアルだったと?」


藤村 「はい。割とリアルめのチンチンでした」


吉川 「誰が作ったんですか、こんなの」


藤村 「それがわかんないんですよね。この辺の人はだいたいみんなこんなの作るから」


吉川 「こんなのを?」


藤村 「もっと大きいのもありますよ?」


吉川 「いや、大きさじゃなくてよ」


藤村 「それこそ長いのも太いやつもあったり」


吉川 「え? なんかそれは宗教的な意味合いとかがあったりとか? 道祖神とか」


藤村 「いえいえ。ただ好きだからですよ」


吉川 「この辺り、小4の男子しか住んでないの?」


藤村 「逆に聞きますが、なんで雪だるまは玉が2つのあのフォルムなんですか? みんなあの形が好きなの?」


吉川 「それはそういうものだとしか」


藤村 「チンチン作りたい気持ちはあるでしょ。誰にだって。なんでわざわざそれを抑えて面白くもない玉2つの雪だるまを作るんですか? あれを見て爆笑する人います?」


吉川 「見たことないですね」


藤村 「チンチン作ったらみんな笑うからね。もう絶対爆笑。100%。チンチンだけは鉄板だから」


吉川 「そうですか。でもあの、情報番組なんでチンチンはまずいかと」


藤村 「でもこれがあなたたちの言っていた奇跡の雪だるまですよ?」


吉川 「そこをなんとか、ちょっと雪を盛ったりしてもいいですかね? ほんのちょっとで雪だるまっぽくなると思うんですよ」


藤村 「なるほど。そうやってマスコミは事実を捏造していくわけですね」


吉川 「いや、違いますよ。そういう意味ではないです。ただ情報番組なので」


藤村 「なにがいけないんですか? チンチンは情報じゃないとでも?」


吉川 「チンチンは情報じゃないですよ。それは違いますよ」


藤村 「この辺の人たちはみんなチンチンのこととなると目の色変えますよ?」


吉川 「それは恐らく集団ヒステリーだと思います」


藤村 「まぁしかし、観光なども大変な痛手を被っておりますから、できることなら番組で紹介していただきたい。本質さえ変わらなければ多少手を加えても構わないでしょう」


吉川 「本質さえ」


藤村 「どうでしょう? 間を取ってこの玉の部分をひと回り小さくしましょう」


吉川 「全然ダメです。まったく間になってない。どことどこの間? 玉の大きさ、いままで気にした発言ありました?」


藤村 「ちょっとでかすぎる気がするんですよね」


吉川 「個人差でしょ、それは。たしかに玉も問題ではあるのだけど、フォルムそのものがまずいんですよ」


藤村 「あぁ、そういうことですか。確かに言われてみればね。小4の男子とは言えて妙ですね」


吉川 「わかっていただけましたか。我々もきちんと伝えますので多少配慮していただければ」


藤村 「一肌脱ぎましょう」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「皮をむk……」


吉川 「一個もわかってねーだろ!」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る