職人

藤村 「俺は職人になろうと思う」


吉川 「また急にどうしたんだ?」


藤村 「職人はいいぞぉ。気分で仕事するからな」


吉川 「そりゃ、傍から見てりゃそう見えるかもしれないけど」


藤村 「今日はチンパンジーの気分で仕事しちゃうぞ。ウキキー」


吉川 「そんな職人はいない」


藤村 「猿回しの職人かもしれないじゃないか」


吉川 「回されちゃうじゃないか」


藤村 「しまった! そういう落とし穴があったか」


吉川 「勝手に穴に落っこちといてなに言ってるんだ」


藤村 「でも、職人いいよなぁ。憧れるよ」


吉川 「言うほど楽じゃないと思うよ」


藤村 「とりあえず、人間国宝だな」


吉川 「ずいぶん高いところをとりあえずにしちゃったな」


藤村 「人間国宝になればなにやってもOKだろ」


吉川 「いや、そりゃえらいだろうけど、犯罪したらダメだよ」


藤村 「人間国宝のマウス職人ってのはどうだろ?」


吉川 「なんだそれ」


藤村 「木彫りのマウスを作るの」


吉川 「マウスって、パソコンの?」


藤村 「そう。中の玉がすごい技術がいるの」


吉川 「木彫りで作る意味がわからない」


藤村 「それはほら、職人になるために」


吉川 「需要がないじゃん」


藤村 「なんだったら漆で塗ってもいい」


吉川 「漆で塗られてもいらない」


藤村 「じゃ、人間国宝のクイックルワイパー職人」


吉川 「そんなもん手作りしてどうするんだ」


藤村 「すごい、手にしっくりとなじむ」


吉川 「馴染まなくていいよ。別に」


藤村 「その代わり、あんまりごみは取れない」


吉川 「ダメじゃん。不良品だよ」


藤村 「じゃ、人間国宝のストロー職人」


吉川 「そんなもの手作りするなよ」


藤村 「まるで口に吸い付くようなストロー」


吉川 「飲みづらいじゃん」


藤村 「職人の仕事って言うのはそういうもんなんだよ」


吉川 「絶対違うと思うけど」


藤村 「じゃ、人間国宝のコースター職人」


吉川 「なんで、簡単に作れそうなものばかり選ぶんだ」


藤村 「そりゃ、俺に技術がないから」


吉川 「技術がない時点でダメだろ」


藤村 「その分、頑固さで補う」


吉川 「補われても困る」


藤村 「リップクリーム職人てのはどうかな?」


吉川 「どうかなって言われても」


藤村 「スティックノリ職人と兼用できる」


吉川 「だからどこに需要があるんだ」


藤村 「人間国宝ともなれば宮内庁御用達だ」


吉川 「宮内庁でも普通のスティックノリつかってると思うぞ」


藤村 「そんなことでは日本の心がダメになってしまう」


吉川 「元々舶来品じゃないか」


藤村 「じゃ、人形職人になろう」


吉川 「やっとまともっぽくなってきた」


藤村 「人形職人の腕の見せ所は、顔を描くところにある」


吉川 「そうなんだ」


藤村 「特に大切なのは目だ」


吉川 「言われてみれば、そんな気がする」


藤村 「人形は身体を作るのが面倒だから顔だけにしよう」


吉川 「ほら、また手を抜いた」


藤村 「でも、完璧な目を入れる」


吉川 「えー」


藤村 「俺の描く目には魂がこもってる」


吉川 「そうなんだ」


藤村 「なんというか、色気のある艶やかな目なんだよ」


吉川 「じゃ、がんばって」


藤村 「よぉし! がんばって達磨職人になるぞー」


吉川 「目を入れちゃダメだろ」



暗転

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