クリスマス

良子 「吉川くん、メルセデスだよ」


吉川 「え? ベンツがどうしたの?」


良子 「もう、本当に吉川くんはこういうことに疎いなぁ」


吉川 「いや、ベンツ関連に特に疎いつもりはないんだけど」


良子 「クリスちゃんの誕生日だよ」


吉川 「誰だよ。クリスちゃんて」


良子 「昔のえらい人でしょ? まぁ、面識はないけど……」


吉川 「え? ひょっとしてクリスチャン?」


良子 「だからクリスちゃんだよ」


吉川 「そして、メルセデスというのはクリスマスのことか?」


良子 「あー! それだ。ごめんごめん。レとべしか合ってなかった」


吉川 「いや、レとべはどっちにもついてないんだけど」


良子 「吉川くん、一緒にクリスマスモミーの飾り付けをしようよ」


吉川 「ツリーね。確かにモミの木だけど、モミーってなんか妖怪みたいになっちゃうし」


良子 「良子はトーナメントを飾るよ」


吉川 「オーナメント。トーナメント飾っちゃったら、なんかキン肉マンのマッスルタッグマッチみたいになっちゃうから」


良子 「吉川くんは、なんで良子のすることにいちいちケチつけるのさ!」


吉川 「いや、ケチをつけたつもりはないんだけど」


良子 「ねぇねぇ、なんでツリーの一番上にはお星様を飾るか知ってる?」


吉川 「いや、知らないなぁ」


良子 「あれはね。アルタイルなんだよ」


吉川 「へぇ、そうなんだ」


良子 「タイルの名前じゃないよ」


吉川 「わかってるよ。星の名前でしょ」


良子 「そう。それでね、一年に一度、織姫様と天の川をはさんで……」


吉川 「いやいや、それ全然違うイベントじゃん」


良子 「うそっ!?」


吉川 「それは七夕じゃないの?」


良子 「うわぁ! 袴田かぁ」


吉川 「誰だよ、袴田って。七夕だろ」


良子 「そっか。ということはなに? あのツリーの一番上の星はなんなの?」


吉川 「いや、俺に聞かれても……」


良子 「きっとメデューサに石にされたりした星だよ」


吉川 「なんで、そんなに禍々しい逸話にするんだ」


良子 「吉川くん、ところで欲しいものがあるでしょ?」


吉川 「え……。なに、突然」


良子 「うふふ。メルセデスプレジデント!」


吉川 「それは、ベンツの社長だね。突然呼ばれてプレジデントもビックリしてると思うよ」


良子 「間違えた! クリスマスプレゼント」


吉川 「わぁ。ありがとう」


良子 「きっと欲しいと思ってさ。ローン組んで買ってきちゃった」


吉川 「そ、そう。あんまりその背景は詳しく聞きたくなかったなぁ」


良子 「何か当ててごらん!」


吉川 「えー。俺の欲しいものでしょ?」


良子 「ヒント。歌にあります」


吉川 「歌? なんだろう? えーと……」


良子 「もう、言っちゃう! 答えは、恋人はガンダムを~♪」


吉川 「え? ガンダム?」


良子 「背の高いガンダムを~♪」


吉川 「ガンダムなんていらないよ! というかどうするんだよ」


良子 「駐車場代がかかっちゃうね」


吉川 「実機かよ」


良子 「ジムにしようか迷ったけど、奮発しちゃった」


吉川 「とんでもない奮発の仕方だな」


良子 「あ、見て……ほら、雪」


吉川 「本当だ」


良子 「雪にガンダムって映えるね。砂漠にアッザムが似合うように」


吉川 「そ、そうだね」


良子 「吉川くん」


吉川 「え? なに?」


良子 「んもう! 雰囲気読めないなぁ」


吉川 「あ、え? ……いや」


良子 「もう、ほらぁ」


吉川 「は、はい」


良子 「スタッドレスに履き替えよう!」


吉川 「え? っていうか、これガンタンクじゃん!」



暗転

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