相撲

吉川 「なぁ、やっぱりやめにしないか?」


藤村 「いまさらなに言ってんだよ」


吉川 「だって、無理だよ」


藤村 「無理だって言ってもやるしかないだろ」


吉川 「俺、経験ないしさ」


藤村 「よかったじゃないか。今日がお前のデビュー戦だ」


吉川 「だいたい、俺たち、二人合わせても体重100kgいかないじゃないか」


藤村 「そんなの、しょうがないだろ。太らない体質なんだから」


吉川 「こんなガリガリが力士になるなんて無理だよ」


藤村 「しょうがないじゃん! なりゆきでそうなっちゃったんだから」


吉川 「よりにもよって、なんで相撲取りなんて言っちゃったんだよ」


藤村 「他に思いつかなかったんだよ」


吉川 「ガリガリ二人で力士なわけないじゃん」


藤村 「パワーよりもテクニック型なんだよ」


吉川 「それにしても……」


藤村 「もう! うるさいな。仕方ないだろ、裸で抱き合ってるところ見られちゃったんだから」


吉川 「そりゃ、事情は複雑だけどさ。でも相撲はないよ」


藤村 「じゃぁ、他になんて言い訳すればよかったんだよ」


吉川 「……思いつかないけどさ」


藤村 「ほら、力士しかないじゃん」


吉川 「でも……なんでふんどしなんか……」


藤村 「ふんどしじゃない。マワシだ」


吉川 「こんなの恥ずかしいよ」


藤村 「お前、普段、Tバックじゃんか」


吉川 「Tバックと一緒にするなよ」


藤村 「似たようなもんだ」


吉川 「固いしゴワゴワしてて気持ち悪い」


藤村 「いいから。あと、大銀杏のカツラ」


吉川 「このちょんまげのカツラなんてゴム製じゃん」


藤村 「ちょんまげじゃない。大銀杏」


吉川 「一緒だよ。こんなのすぐばれるって」


藤村 「しかたないだろ。お前は俺みたいにワンレングスじゃないんだから」


吉川 「なんでお前、自前で結えてるんだよ」


藤村 「たまたまだよ」


吉川 「なぁ、腋毛とか剃った方がいいの?」


藤村 「剃らないよ。自然にしてろよ」


吉川 「でも、やっぱり見た目的にさ」


藤村 「剃りたかったら、剃れよ」


吉川 「いいよな、お前は。腋毛も薄いし」


藤村 「別によかないよ」


吉川 「やっぱ無理だよー。相撲なんて」


藤村 「無理とか言うな。やるしかないんだから」


吉川 「だってさぁ……」


藤村 「なんだよ! グダグダ言いやがって」


吉川 「男らしくはないからな!」


藤村 「そういうジェンダー的な意味じゃない」


吉川 「でも、相撲なんてできないって」


藤村 「お前、ベッドでは技のデパートって呼ばれてるじゃないか」


吉川 「そんな呼び方するのお前しかいない」


藤村 「俺たちの疑惑を晴らすには、これしかないんだよ」


吉川 「もういいよ。マイノリティとして生きる」


藤村 「なんで、やるまえからあきらめるんだよ!」


吉川 「だって相撲だぜ? 冷静に考えてみろよ。ガリガリ二人がさ」


藤村 「いいじゃん。やせてたって相撲を愛する気持ちは同じだ」


吉川 「俺は別に相撲を愛してるわけじゃない」


藤村 「いいから。ここ一番、待ったなしで」


吉川 「なんでお前、そんなにノリノリなんだよ」


藤村 「な……、それは、ほら、疑惑を晴らすために」


吉川 「お前、実は相撲好きなんじゃね?」


藤村 「……」


吉川 「さっきから、妙に詳しいし。普通、素人がふんどしのしめ方知らないだろ」


藤村 「マワシ」


吉川 「ほら、やっぱり相撲好きなんだ」


藤村 「……そうだよ。相撲好きだよ。相撲が大好きだよ!」


吉川 「やっぱり!」


藤村 「元はと言えば、お前とだって……」


吉川 「え……?」


藤村 「い、いや。なんでもない」


吉川 「お……お前、ひょっとして……」


藤村 「違うんだ!」


吉川 「ただの相撲フェチだったのか!」


藤村 「……ごめん」


吉川 「いや……こっちこそ」



暗転

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