チャンピオンベルト

藤村 「思い出すなぁ、初めてお前と出会った時のこと」


吉川 「こんな時に思い出話ですか」


藤村 「あの時のお前は、さながら鋭く研がれたバターナイフのようだったよ」


吉川 「曖昧な切れ味だなぁ」


藤村 「俺はその時、夢破れ町をさまよっていた」


吉川 「その時に俺と……」


藤村 「そうだ。初めてお前を見たとき、俺は思ったね」


吉川 「夢……ですか?」


藤村 「いや、派手なシャツだなぁ」


吉川 「外見かよ!」


藤村 「しかもセンス悪かった」


吉川 「大きなお世話ですよ」


藤村 「でも、その時、俺の本能が呼びかけたんだ」


吉川 「なんて?」


藤村 「キシシシ、あいつをチャンピオンにしちゃえよ!」


吉川 「なんで悪魔っぽい囁きなんだ」


藤村 「まさにお前はダイヤの胆石だった」


吉川 「原石」


藤村 「胆石の原石だった」


吉川 「それはただのでかい胆石だ」


藤村 「それが今じゃ、チャンピオンになろうとしている」


吉川 「へへ……」


藤村 「よくぞここまで連れてきてくれた」


吉川 「礼を言うのは、まだ早いぜ。あのベルトを奪ってからだ」


藤村 「そうだな」


吉川 「必ず、あんたに持って帰ってやる」


藤村 「でも、あのベルト、ちょっとダサいな」


吉川 「いや、チャンピオンベルトだから」


藤村 「服とあわせづらい」


吉川 「あわせないよ! 普段使いのベルトじゃないんだから」


藤村 「あぁ。冠婚葬祭用か」


吉川 「葬式であんなベルトしていったら遺族から塩撒かれるぞ」


藤村 「でも、あのベルトが欲しいだろ?」


吉川 「欲しい。必ず手に入れる」


藤村 「フッ……、お前はあの頃とちっとも変わってないな」


吉川 「そうかなぁ?」


藤村 「そうさ。その鋭いガチャピンのような目つき」


吉川 「ガチャピンは鋭くないけどね……」


藤村 「ムックのような毛深さ」


吉川 「毛深いとか言うな」


藤村 「クレクレタコラのようなハングリーさ」


吉川 「なにも、全部ぬいぐるみで喩えなくてもいいから」


藤村 「それになによりも、私服のセンスが悪い」


吉川 「そういう意味でベルトが欲しいわけじゃない!」



暗転

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