幽霊

幽霊 「うらめしや」


吉川 「ひっ! ここは柳の下! ということは」


幽霊 「幽霊です」


吉川 「うわぁ!」


幽霊 「そんなに驚かなくても」


吉川 「本物?」


幽霊 「一応、本物です」


吉川 「え~と。はじめまして。吉川です」


幽霊 「あ、どうも。幽霊です」


吉川 「女性……ですよね?」


幽霊 「生前は」


吉川 「いやぁ。奇遇だなぁ。うちの母も女性なんですよ」


幽霊 「母はたいていの場合、女性だと思いますけど」


吉川 「そうですよね……」


幽霊 「……」


吉川 「……調子はどうですか?」


幽霊 「死んでますから」


吉川 「そうですよね……」


幽霊 「……」


吉川 「いや、あの、幽霊なんて会ったの初めてなんで、なに話していいのかわからなくて」


幽霊 「あ、お気遣いなく」


吉川 「はぁ」


幽霊 「……」


吉川 「あの、美空ひばりさん、元気ですか?」


幽霊 「いや、聞かれても、知り合いじゃないんで……」


吉川 「あぁ、そうか……。じゃ、黒柳さんは?」


幽霊 「あの人は多分生きてます」


吉川 「あぁ、まだこっちですか」


幽霊 「あの、本当にお気遣いなく」


吉川 「いや、別にそんなつもりじゃ……。あ! 僕、手相見れるんですよ」


幽霊 「もう運命尽きてますから」


吉川 「……ですよね」


幽霊 「……」


吉川 「足、ないんですね」


幽霊 「はい。幽霊ですから」


吉川 「どんな感じですか? ちょっと飛んでる感じでしょ?」


幽霊 「いや、普通に歩いてる感じです」


吉川 「あぁ……。そうですか」


幽霊 「はい」


吉川 「……あの、なにかこちらに思い残したことでも?」


幽霊 「え……。まぁ」


吉川 「なんですか? 力になれるならなりますよ」


幽霊 「でも……」


吉川 「こうやって出会ったのも何かの縁じゃないですか」


幽霊 「実は……私は恋を知らずして死んでしまったので……」


吉川 「えぇっ!? そんなに美人なのに」


幽霊 「そんなことないです」


吉川 「いや、美人ですよ。色白だし」


幽霊 「それは血が通ってないから……」


吉川 「なんか、儚い感じがしてねぇ」


幽霊 「死んでますから」


吉川 「あの、どんなタイプの男性が好みですか?」


幽霊 「そうですねぇ、優しいタイプが」


吉川 「あ! 奇遇。僕こう見えても世界優しさグランプリ9年連続ディフェンディングチャンピオンなんですよ」


幽霊 「はぁ……。そうですか」


吉川 「奇遇だなぁ。ちなみに僕、ちょうど彼女いないんですよ」


幽霊 「はぁ」


吉川 「どうです? 僕なんて」


幽霊 「え……、急にそんなこと言われても」


吉川 「脈ありですか?」


幽霊 「ないです」



暗転

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