雪女

雪女 「しかし蒸すわねぇ」


吉川 「初夏ですからね」


雪女 「避暑地に行きたいわぁ」


吉川 「こういうの聞くのもあれなんですけど、雪女さんて夏の間ってどうしてるんですか?」


雪女 「暑がってるわよ」


吉川 「いや、そうじゃなくて。具体的にどうすごされてるのか」


雪女 「バブルの頃はあれね、オーストラリアとかに行ってたわよ」


吉川 「最近は?」


雪女 「クーラー効いた部屋でネトフリ見たり……」


吉川 「わぁ。普通!」


雪女 「普通よ。なに? 異常だと思ってたの?」


吉川 「いや、だって雪女でしょ?」


雪女 「そうよ」


吉川 「そんなの一般人じゃないですか」


雪女 「バカ! 全然違うわよ。クーラーの設定温度が全然違う」


吉川 「そうなの?」


雪女 「16度よ!」


吉川 「ちょっとしたデブならそのくらいですよ」


雪女 「しかもパワフルモード」


吉川 「そりゃ、結構冷たいだろうけど、思ってたのと違うなぁ」


雪女 「どんな風に思ってたの?」


吉川 「なんか、口からブリザード吹いたり」


雪女 「そんなの吹けるわけないじゃない! 口が凍傷になっちゃうわよ」


吉川 「だから、そういうのが平気なんじゃないかと」


雪女 「吹くのなんてホラくらいなもんよ」


吉川 「うわぁ。普通」


雪女 「時には草笛を吹く風流さも持ち合わせてる」


吉川 「まぁ、その点はご自由に風流していただいてかまわないんですが」


雪女 「私なんてあれよ。別に特技とかないよ」


吉川 「ないの?」


雪女 「ないことはないけど、珠算三級とか」


吉川 「いや、そういうのじゃなくて」


雪女 「英検も四級もってるけど一応謙遜してないって言ったの」


吉川 「その謙遜は正解だと思います」


雪女 「ちょっとでかけようとすると雪の日が多いなぁってそのくらいよ?」


吉川 「え? そういう意味で雪女なの?」


雪女 「そうそう。大事な日は決まって雪が降る」


吉川 「それって、運の悪い普通の人じゃ」


雪女 「運は抜群にいいわよ。雪は私のラッキー天気だもの」


吉川 「なんだその種類の少なそうなラッキーカテゴリーは」


雪女 「ラッキーカラーは灰色」


吉川 「白じゃないんだ」


雪女 「ちょっと降った後に道路でグチャグチャになった感じの灰色」


吉川 「そんなのちっともラッキーっぽくない」


雪女 「まぁ、私はその程度の女ですから過度に期待されても困ります」


吉川 「ハァ。すみません」


雪女 「ちなみに今年は赤ちゃんばかりの国に避暑に行くわ」


吉川 「なんですかそれ」


雪女 「ニュージーランド。乳児ランド。なんちゃって!」


吉川 「さすが雪女さん、なんか急に寒くなった気がします」


雪女 「嘘だけどね」


吉川 「ホラ吹かれた……」



暗転

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