一皮むけた

藤村 「いや、全然話が見えないんだけど……」


吉川 「だから、俺は一皮向けて成長したんだよ」


藤村 「その前だよ。根本的な部分がわからない」


吉川 「よぉ! 藤村、久しぶりだな」


藤村 「そんな前に戻らなくてもいい。出会いの場面じゃん」


吉川 「カバオくん、お父さんの入れ歯めっかった?」


藤村 「パーマンか。戻る以前にそんな会話交わした覚えなどない」


吉川 「実は俺、昆虫なんだ」


藤村 「そこだ!」


吉川 「ここか」


藤村 「そこに異議あり!」


吉川 「認めません」


藤村 「いや、認めてよ。なんだよ昆虫って」


吉川 「昆虫は昆虫だよ」


藤村 「どっからどう見ても人間だろ」


吉川 「あー、完璧すぎるからなぁ。擬態」


藤村 「擬態っ!? これ擬態なの?」


吉川 「そうだよ。鳥とかに食べられないように」


藤村 「だって昆虫って普通なんていうか、もっとこう……」


吉川 「いい匂い?」


藤村 「いや、匂いじゃなくてさ。匂いはどちらかというと悪いよ」


吉川 「失敬な奴だな」


藤村 「だってデカイ」


吉川 「そうでもないよ。もっとでかい奴もいる」


藤村 「そもそもなんていう昆虫なんだ」


吉川 「ニンゲンモドキ」


藤村 「うわぁ。モドいてるのか!」


吉川 「そうそう。モドいてる」


藤村 「じゃ、でかいやつって……」


吉川 「オオニンゲンモドキね。全長27mある」


藤村 「でかい! でかすぎる」


吉川 「まぁ、立ち話もなんだからその辺の樹液でも吸いながら」


藤村 「吸わないよ! 俺は普通の人間だもの」


吉川 「あぁ。そっか」


藤村 「でも、にわかには信じられないなぁ」


吉川 「だって会うの久しぶりじゃん?」


藤村 「久しぶりだけど……」


吉川 「しばらくサナギだったからだよ」


藤村 「えー! サナギとかなるの?」


吉川 「ずっと部屋の中でじっとしていた」


藤村 「それ、ただのヒキコモリじゃん」


吉川 「ようやく羽根を伸ばすことができるよ。ダブルの意味で」


藤村 「あるんだ? 羽根?」


吉川 「あるよ」


藤村 「見せてよ」


吉川 「やだよ! エロいなぁ」


藤村 「えー。それってエロ関係なの?」


吉川 「こんなところでそんな恥かしい真似できるか!」


藤村 「そういうもんなんだ」


吉川 「そうだよ。羽根を見せるのは交尾の時と飛ぶ時だけだよ」


藤村 「結構頻繁じゃん」


吉川 「俺クラスになると、よっぽどのことがない限り飛ばない」


藤村 「へぇ、っていうかさ」


吉川 「ん?」


藤村 「しゃべってるじゃん」


吉川 「しゃべってないよ?」


藤村 「いやいやいや、その返しも喋ってるでしょ」


吉川 「あー。これね。これはあれだよ。羽根がすり合わさる音」


藤村 「えー! ちゃんと会話で成立してるのに!」


吉川 「原理は鈴虫とかと一緒ね」


藤村 「鳴き声なんだ……」


吉川 「鳴き声はまた別だよ」


藤村 「別にあるのっ!?」


吉川 「求愛の時とかに大声で鳴く」


藤村 「セミみたいなもんか」


吉川 「そうそう」


藤村 「ちなみに、なんて鳴くの?」


吉川 「カバオくんお父さんの入れ歯めっかった?」


藤村 「それかー」



暗転

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