喪失
吉川 「おっかしいなぁ……。どこで無くしたんだろ?」
藤村 「平気?」
吉川 「家出るときはあったんだけどなぁ」
藤村 「そうかぁ」
吉川 「なんか悪いね。お前にも迷惑かけちゃって」
藤村 「気にするなよ。俺とお前の仲じゃん」
吉川 「本当にゴメンね。え~と、そうだ。家出たときから順に記憶をたどっていこう」
藤村 「そんな無理しなくても」
吉川 「いや、本当に申し訳ないけどつきあってくれる?」
藤村 「俺はいいけどさ」
吉川 「まず、家を出て……そうだ。車に轢かれたんだ」
藤村 「轢かれたのっ!? いきなり?」
吉川 「あ、軽、軽、大丈夫」
藤村 「いや、いくら軽自動車でも大丈夫じゃないだろ」
吉川 「慣れっこだから」
藤村 「慣れちゃってるの? どういう生活してるんだ」
吉川 「そのあと……」
藤村 「いや、その時じゃないの!? 轢かれた時」
吉川 「轢かれた時は違う。ちょっとペラペラになっただけだから」
藤村 「そんなマンガチックな状況になるもんなんだ」
吉川 「慣れっこだからね」
藤村 「普段からよくペラペラなんだ」
吉川 「そのあと、野犬に追いかけられたんだ」
藤村 「のび太か」
吉川 「逃げながらペンキ屋さんの梯子をひっかけたり」
藤村 「コメディアンみたいだな」
吉川 「知らない間に服が脱げたりしながら」
藤村 「知っとけよ。知らない間に脱げないだろ」
吉川 「慣れっこだから」
藤村 「慣れないだろ。脱いでるんじゃん。自発的じゃん」
吉川 「そのあと買い物して……家に帰ったんだ」
藤村 「え? 家に?」
吉川 「うん、荷物多かったから」
藤村 「え? だって今は?」
吉川 「あ~、昨日の話ね」
藤村 「昨日からか。え? そこから?」
吉川 「今日からのほうがよかった?」
藤村 「できれば手短にしていただいたほうが」
吉川 「わかった。今日はね……家を出て、とりあえず車に轢かれるでしょ」
藤村 「とりあえず轢かれるんだ。え? もう、わざとなの?」
吉川 「F1、F1、大丈夫」
藤村 「F1はその辺走ってないだろ。なにが大丈夫なんだ」
吉川 「で、野犬の群れに混じったあと」
藤村 「なんで混じるの? バカじゃない」
吉川 「ボスまでのし上がったね」
藤村 「のしあがったんだ。野犬の」
吉川 「賄賂で」
藤村 「なんだ、賄賂って」
吉川 「干し肉」
藤村 「きたね~。なんか人間の恥だ」
吉川 「で、しょうがないから脱いで」
藤村 「なんでしょうがないんだよ! そこ説明たりなすぎだろ」
吉川 「もう、それどころじゃなかったんだよ」
藤村 「どれどころ? なにがお前を追い詰めてたの?」
吉川 「それで、ちょうどいいところでお前と会ったんだ」
藤村 「そんな状況だったのか。どうりでズボン脱ぎかけだったと思った」
吉川 「あれは違うの。犬のヨダレでベトベトになっちゃったからしぼってて」
藤村 「そんなに……」
吉川 「それで、お前と話して」
藤村 「う、うん」
吉川 「そうだ! お前が金貸してくれって言ってきたんだ」
藤村 「そうだね」
吉川 「それで、干し肉じゃダメ? って俺が聞いて」
藤村 「ダメ」
吉川 「でもなぁ……俺もあんまり」
藤村 「俺とお前の仲じゃん」
吉川 「そうだ! 思い出したよ! それでサイフ出したところで」
藤村 「俺がこう鈍器で……ッ!」
吉川 「ヴッ……」
藤村 「それで、俺がお前のサイフから金を抜き取ったんだ。……なんかベトベトしてると思ったら犬のヨダレかよ」
吉川 「う、う~ん」
藤村 「もう起きやがった! さすが毎日車に轢かれてるだけあるなぁ」
吉川 「あれ? 俺こんなところでなにしてるんだ?」
藤村 「大丈夫か?」
吉川 「あ、藤村。う~ん。あれ? なんか……記憶が無い」
藤村 「そりゃ大変だ!」
吉川 「おっかしいなぁ……。どこで無くしたんだろ?」
暗転
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