気管支炎

藤村 「調子どう?」


吉川 「あ、来てくれたんだ」


藤村 「あ~、起きなくていいよ」


吉川 「悪いな」


藤村 「風邪じゃなかったんだって?」


吉川 「うん。急性気管支炎だって」


藤村 「あぁ。例の死ぬやつか」


吉川 「いや、死なないよ。不吉なこと言わないでよ」


藤村 「しかしなんだよなぁ。健康と性格の悪さだけがとりえのお前が」


吉川 「性格悪いのは全然取り柄じゃないよね」


藤村 「あと、顔も悪い」


吉川 「大きなお世話だ」


藤村 「でもまぁ、よかったじゃないか。この年まで無事生きれたんだから」


吉川 「もうすぐ死ぬような言い方やめてください」


藤村 「しかし、急性気管支炎ってあれだね」


吉川 「なに?」


藤村 「早そうだね」


吉川 「全然それどころじゃない」


藤村 「なんか、急行の機関車っぽくない?」


吉川 「ない」


藤村 「機関車モーリスっぽい」


吉川 「トーマスだろ。誰だモーリスって」


藤村 「……弟」


吉川 「嘘をつくな。間違いを嘘で強引に塗りこめるな」


藤村 「ごめん。本当は貨物車」


吉川 「だから、なんで理由のない嘘をつくんだ」


藤村 「お前がそんなに機関車に詳しいとは侮ってたなぁ」


吉川 「別に詳しくないよ。明らかに嘘じゃないか」


藤村 「そういえば、フルーツとか食べる?」


吉川 「あ、なんか買ってきてくれたんだ。悪いね」


藤村 「レタスしかないけど」


吉川 「フルーツじゃない!」


藤村 「バカだなぁ。栄養あるんだぞ」


吉川 「だからって、レタスは完璧な野菜だ」


藤村 「海のキャベツって言われてるんだから」


吉川 「言われてないよ! 海じゃないし。キャベツだって野菜だ」


藤村 「俺が個人的にそう呼んでる」


吉川 「レタスもいい迷惑だ」


藤村 「まぁ、むいておくから気が向いたら食べてよ」


吉川 「いや、むかないでいいよ! なんで一枚一枚にしてるんだ」


藤村 「食べきりサイズ」


吉川 「コオロギじゃないんだから。レタスだけバリバリ食べないだろ」


藤村 「塩ふっておいて上げる」


吉川 「そんな地味なケアはいらないよ」


藤村 「でもまぁ、元気そうで良かった」


吉川 「そんなに元気でもないけど」


藤村 「もっと野生化してるかと思ってたよ」


吉川 「なんで!? 気管支炎てそういう病気じゃないよ」


藤村 「思ってたより巨大化もしてないし」


吉川 「何の病気だと思ってるんだ」


藤村 「あ、これね。みんなから」


吉川 「あぁ。ありがとう」


藤村 「千羽鶴」


吉川 「わぁ」


藤村 「……用の折り紙」


吉川 「俺が作るの? 自主的に?」


藤村 「病気の間、暇だろうから」


吉川 「いや、確かに暇だけど。なんでこんな内職みたいの課せられないといけないんだ」


藤村 「じゃ、あんまり長居して奇病をうつされても困るから帰るわ」


吉川 「そんな言い方しなくたって……」


藤村 「あれ? こういう時なんていうんだっけ?」


吉川 「え?」


藤村 「犬死じゃなくて……無駄死にじゃなくて……」


吉川 「……お大事に。じゃない?」


藤村 「あぁ。それだ! ウッカリ忘れた」


吉川 「だからって、間違い方ってもんがあるだろ! なんだ無駄死にって」


藤村 「ゴメンゴメン。願望がこぼれた」


吉川 「思ってるの!? すごいショック」


藤村 「それじゃ、尾田栄一郎」


吉川 「お前、わざとだろ!」



暗転

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