銀行強盗

吉川  「大きな声を出すな」


銀行員 「ひっ……」


吉川  「このバッグに金を詰めろ」


銀行員 「ご……強盗?」


吉川  「そうだ。騒ぐなっ! さもないと……」


銀行員 「……」


吉川  「笑わせるぞ」


銀行員 「え……」


吉川  「笑わせるぞ」


銀行員 「いや……あの……え?」


吉川  「いいのか? どうなっても知らないぞ」


銀行員 「どうなってもって……笑うんでしょ?」


吉川  「あぁ……大爆笑だ」


銀行員 「あの……失礼します。支店長~! 支店長~!」


吉川  「バカっ! なぜ人を呼ぶ」


支店長 「いかがなされました? お客様」


吉川  「強盗だ」


支店長 「ご……」


吉川  「速やかにバッグに金を詰めろ」


支店長 「落ち着いてください。お客様」


銀行員 「支店長……それが……」


吉川  「早くしろっ!」


銀行員 「どうします?」


吉川  「早くしないと一発お見舞いするぞ!」


支店長 「ひぃっ……」


銀行員 「なんか……お笑いらしいんですが……」


支店長 「……え?」


吉川  「いいのか? 笑わせるぞ!」


銀行員 「笑わせるらしいです」


支店長 「……え?」


吉川  「物分りの悪いやつめ。とっとと金を渡さないと笑わせるって言ってんだ!」


銀行員 「そうおっしゃってるようです」


支店長 「はぁ……あの……笑わせて……どうするんですか?」


吉川  「ばかっ! 笑い死ぬぞ。いいのか?」


支店長 「あぁ……そういう……」


銀行員 「どうしましょう?」


支店長 「お引取り願ってください」


銀行員 「はい。……ということなんで」


吉川  「ふざけんなっ! 命が惜しくないのか! ここにいる全員笑わせるぞ」


支店長 「えぇと……ご自由にどうぞ」


吉川  「ははぁ~ん。さては俺が本気じゃないと思ってるな?」


支店長 「いや、本気でも本気じゃなくてもどっちでも構わないかと……」


吉川  「じゃぁ、まずは挨拶程度に……猿になにをなサル!」


支店長 「……」


銀行員 「はははははは!」


支店長 「えー! 今ので大爆笑?」


銀行員 「ひーひー! 苦しいー! 死ぬー」


吉川  「どうだ。今のはジャブだぞ」


支店長 「ちょっと君! 本気かね」


銀行員 「もうダメ……一年分笑った」


支店長 「幸薄い一年だなぁ……しっかりしたまえ」


銀行員 「はぁ……はぁ……恐ろしい……」


吉川  「わかったら、早く金を詰めろ!」


支店長 「いや、あんまりわかってないんですが……」


銀行員 「支店長! やばいです。やつは本物です」


支店長 「えぇ!? 本物のなんなの? なにものなの?」


銀行員 「やつの目を見てください。演芸場で客を笑わすプロのハンターの目です」


支店長 「そんなハンター聞いたことない」


吉川  「こっちは、こんなオモシロギャグがあと二百はあるんだぜ」


銀行員 「に……二百も……」


支店長 「いや、びびる所じゃないでしょ。ギャグだよ?」


銀行員 「ここはやつの要求に従いましょう」


支店長 「やだよ。なんでそんな要求にしたがっちゃうの?」


吉川  「まだわかってないようだな。ではお次の……象に何かするゾウ!」


支店長 「……」


銀行員 「あはははは」


支店長 「えー! また大爆笑? さっきと一緒じゃん」


銀行員 「ゾウに……ゾウに……はははは」


吉川  「早くしないとこいつは死ぬぞ」


銀行員 「ヒーヒー。支店長……死にます」


支店長 「死んじゃうの? 本気で?」


銀行員 「おなかがよじれてます。もう余命幾ばくもありません」


支店長 「いや……なんか釈然としないんだけど……」


銀行員 「お金なら渡しますから! もう勘弁してください」


吉川  「初めからそうすれば笑うこともなかったのに……」


支店長 「渡しちゃうのか。えー。まじかよぉ」


銀行員 「私がどうなってもいいんですか!」


支店長 「いやダメだけど。基本的にだめだけどさぁ……でもなぁ……」


銀行員 「次のがきたら耐え切る自信はありませんよ」


支店長 「しょうがねーなぁ……」


吉川  「よしよし、警察には連絡するなよ」


支店長 「はぁ……」


吉川  「最後に餞別だ。サイに何かしなサイ!」


銀行員 「ひゃーひゃー!」


支店長 「一緒じゃん! 全部同じじゃん!」


銀行員 「ヒィーー! 窒息死するー」


支店長 「……まじかよ」


吉川  「あ~ばよ~」


銀行員 「ハッハッハ! アバヨだって……アバヨって!」


支店長 「いや、それはギャグじゃないだろ……」


銀行員 「はぁ……しかし、恐ろしい強盗でしたね」


支店長 「あんなやつは地獄に落ちればいいんだ。Go to hell!」


銀行員 「……」


支店長 「いや、だからね。強盗とゴートゥーをかけてね……」


銀行員 「支店長」


支店長 「はい?」


銀行員 「ふざけてないで仕事してください」


支店長 「……はい」



暗転

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