ソムリエ
吉川 「野性味溢れる力強さの中に、羽毛のような柔らかさをもちあわせ、嫌味なく主張する芳醇なる香りが鼻腔をかすめます」
藤村 「ほほぉ。なかなかですな」
吉川 「お恥ずかしい、ではそちらのお手並みを拝見」
藤村 「草原に吹くさわやかな風のようであり、また穢れを知らない乙女もらしたため息のような繊細さを感じました」
吉川 「なるほど、さすがですな」
藤村 「いやいや、参りました」
吉川 「なにをおっしゃる。エアコンの室外機をここまで見事に表現する人はおりませんよ」
藤村 「では、次のお題はどういたしましょう?」
吉川 「そうですなぁ……電子レンジ。などいかがでしょう?」
藤村 「よいですな。では今度は私から」
吉川 「楽しみですな」
藤村 「暖かな日差しの中に溢れる優雅さと、シャープな印象の中に潜む柔らかな優しさを感じます」
吉川 「これはおそれいりました。シャープ製と掛けましたな?」
藤村 「いやはやお恥ずかしい。見透かされましたか」
吉川 「はっはっは。見事でした」
藤村 「いやいや、私などまだまだ。では、お願いします」
吉川 「野性味溢れる力強さの中に小鳥達のさえずりにも似た微かな心意気と泡のような儚さを持ち合わせたメタリックさ」
藤村 「なんとも型破りな……」
吉川 「ほほほ。たまにはこういうのも」
藤村 「まさかメタリックさ加減を強調してくるとは」
吉川 「では次のお題は……」
藤村 「歯磨き粉……などいかがでしょう?」
吉川 「いただきましょう。ではさっそく」
藤村 「お手並み拝見」
吉川 「野性味溢れる力強さの中にリストラクチャリングな空気感とベンチャーな勢いを感じます」
藤村 「は……はぁ。お、お見事で……」
吉川 「ほほほ、ではお願いします」
藤村 「世紀末感の漂う荒廃した時代背景の中で燦然と輝くデキストラナーゼのような軽く伸びやかな感触」
吉川 「……では、次を」
藤村 「はい」
吉川 「ゴム手袋で」
藤村 「では、私から」
吉川 「どうぞ」
藤村 「最後の仲間だと信じていたスミスの裏切りにより失意の下に陥るスケスケ団、しかしその影にはさらに大きな陰謀が渦巻くのであった」
吉川 「……終わり?」
藤村 「終わりです」
吉川 「あ、そう」
藤村 「では、そちらも」
吉川 「野性味溢れる力強さの中にコモエスタなミサイルとポリフェノールなシミュレーションのタイアップでダイナマイツッ!」
藤村 「ちょっと待てよ! なんだ、ダイナマイツって」
吉川 「お前こそスケスケ団ってなんだ!」
藤村 「スケスケ団は町の治安を守るスケスケの自警団だ」
吉川 「そんなことは聞いてない!」
藤村 「お前だってなんだ。野性味溢れてばっかりじゃないか!」
吉川 「溢れちゃってるんだからしょうがないだろ」
藤村 「意味もわかってないくせに横文字ばっかり使いやがって」
吉川 「お前だって使ってるだろ! デキストラナーゼとか。成分じゃないか!」
藤村 「成分言って何が悪いんだよ。お前の言ってることより百倍伝わる!」
吉川 「ふざけんな、バカ!」
藤村 「バカはどっちだ。バカッ!」
吉川 「お前なんてな……野性味溢れる力強さの中に天使が舞い降りる時に吹く一陣の風のような繊細さをもちあわせ、その佇まいはオーロラのようだ!」
藤村 「お前こそ、月のない夜に一際輝く星のような美しさの中に、木漏れ日のような鋭さを持ち合わせ、その面立ちは雨上がりの空にかかる七色の橋のようだ!」
吉川 「……」
藤村 「……」
二人「とりあえず……乾杯しておきますか?」
暗転
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