一寸法師

吉川 「本当に小さいなぁ」


一寸 「あんまり言うなよ。気にしてるんだから」


吉川 「もう気にするレベルはるかに超えちゃってるでしょ」


一寸 「こう見えてもね、3.4cmあるんだぜ?」


吉川 「こう見えてもって……そう見えるけど」


一寸 「ゴメン。本当は2.8cmでした! サバ読みました!」


吉川 「サバ読んだのか。そんな微妙な」


一寸 「だって3cmないんだぜ? 一寸もないんじゃ、名前負けじゃん」


吉川 「そういうのも名前負けなんだ」


一寸 「あとプライドの問題?」


吉川 「0.6cmで保てるプライドなんだ」


一寸 「小さな身体に大きなプライドだよ」


吉川 「なんだ、そのキャッチフレーズは。かっこいいつもりか」


一寸 「キャッチフレーズ以前にさ、俺、改名しようと思ってんのよ」


吉川 「なんで? みんなに親しまれた一寸法師を」


一寸 「こんな名前だから、背伸びないんだよ。もっとビッグになる名前がいいよ」


吉川 「名前のせいにしてる」


一寸 「あとね、読み間違えられるの。チョット法師って」


吉川 「間違わないだろ。チョットはおかしい」


一寸 「まぁ、おかしいよな。チョット法師とか、馴れ馴れしいにも程があるよ」


吉川 「馴れ馴れしいわけじゃないだろ」


一寸 「英語で言えばエクスキューズミー法師だぜ?」


吉川 「そりゃ違う」


一寸 「うん。違う。勢いで言っちゃった」


吉川 「でもまぁ、一寸なんだからなぁ」


一寸 「お前に俺の苦しみがわかるか? ちっちゃいんだぜ?」


吉川 「いや、見当もつかないけど」


一寸 「サイズの合う可愛い下着が無いの!」


吉川 「下着か。しかも可愛さ重視。可愛くなる必要性があるとは思えない」


一寸 「市販のSSでもでかすぎだよ。ルーズに着るにも程がある」


吉川 「そもそもSとかの問題じゃないからね」


一寸 「彼女とかできないんだよ?」


吉川 「そりゃまぁ」


一寸 「なんか積極的な女の子とかいると思ったら、エッチな要求をされるしさぁ」


吉川 「うわぁ、それはなんか屈辱だけど、心なしか羨ましい」


一寸 「まぁ、やるけどね」


吉川 「やるんだ。やっぱり」


一寸 「なんつーかな、人助け的な意味があるわけじゃん?」


吉川 「欺いてる。自分を欺いて納得させてる!」


一寸 「友達なんて目玉の親父だけだぜ」


吉川 「友達なんだ。同サイズで」


一寸 「あっちは茶碗の風呂で、こっちはお椀の船だよ。二人で並ぶと間抜けだぜー」


吉川 「そりゃ、間抜けだよな」


一寸 「おかずがなくて」


吉川 「それが間抜けなのか。おかずポジションの問題なんだ」


一寸 「だから改名する。180cm法師」


吉川 「語呂悪っ」


一寸 「だいたい法師もなんだよな。いまどき」


吉川 「法師かっこいいじゃん」


一寸 「たまに間違えられるもん。一寸坊やとか。アホか。なめんなよ」


吉川 「まぁ、坊やと呼びたくなる気持ちもわかる」


一寸 「法師なんて俺か琵琶かくらいじゃん」


吉川 「琵琶法師もあんまり呼ばないけどなぁ」


一寸 「だから考えた。これからはボーイでいく」


吉川 「ボーイ!」


一寸 「アメリカナイズしてみた。カッコイイだろ?」


吉川 「アメリカナイズなんだ」


一寸 「180cmBOY! ちょっとかっこいいじゃん。来日しそうじゃん」


吉川 「来日って日本から出たことないくせに」


一寸 「180cmBOY! カミングスーン」


吉川 「T・レックスの曲みたいだ」


一寸 「180cmBOY! Now on sale!」


吉川 「売るなよ。もっと自分を大切にしろよ」


一寸 「これでそのうち背が伸びるぜ」


吉川 「それはそれで個性がなくなると思うけど……」


一寸 「個性なんていらねーよ。俺はその個性でどれだけ泣いてきたか」


吉川 「まぁ、大変な思いしたんだろうな」


一寸 「あー、早く背が伸びないかなぁ……。夢が膨らむなぁ」


吉川 「180cmになったら、まず何がしたい?」


一寸 「えっと……今まで笑ってきた奴を見下してみたいね」


吉川 「人間が小さいな」



暗転



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