人間凶器

吉川  「お前が人間凶器か?」


人間凶器「なんだ貴様は? 自殺志願者か?」


吉川  「お前を倒させてもらう」


人間凶器「ハハッ。いいだろう、今日がお前の命日だ」


吉川  「待って! 違うの!」


人間凶器「……え?」


吉川  「戦うのは俺じゃない。俺はプロモーター。お前の相手は別に用意してある」


人間凶器「そういうことか。いいだろう。誰でも相手になってやる、死にたい奴は誰だ?」


吉川  「ふふふ。ちゃんと最強の相手を用意したさ」


人間凶器「人間凶器と呼ばれる、この俺を倒せる相手ねぇ」


吉川  「そう! 最強の昆虫凶器ことカブトムシ横綱のヘラクレスさんだ!」


人間凶器「か、かぶ?」


吉川  「このヘラクレスさんは、カブトムシ相撲で三年連続チャンピオン。その強さもさるものながら、寿命の長さも驚異的」


人間凶器「で、カブトムシがどうかしたの?」


吉川  「お前を倒す!」


人間凶器「倒されないよっ! だって、虫じゃん!」


吉川  「昆虫凶器だ」


人間凶器「いや、確かに俺は人間凶器だけども。なんつーか、凶器って虫でしょ?」


吉川  「行けっ! ヘラクレスさん! 自慢の角で上手投げだ!」


人間凶器「捕まえた。モゾモゾしてる」


吉川  「しまった! マウントを取られたか」


人間凶器「とってないよ。こうなったら、裏側の部分をつぶさに観察してやる」


吉川  「やめろー! 昆虫にとって腹をつぶさに観察されるのは、何よりも屈辱。そんな残酷なことを顔色一つ変えずに……おそるべし人間凶器」


人間凶器「あ、飛んでっちゃった」


吉川  「あ~ぁ」


人間凶器「……俺の勝ち?」


吉川  「喜ぶのはまだ早いぞ。今のは四天王の中でも最弱なのだ」


人間凶器「四天王。まだ3匹もいるのか」


吉川  「今度は昆虫ではない!」


人間凶器「よかった。ちょっとはましなやつがいるんだな」


吉川  「今度の相手は打たれづよさ、防御の上手さに関しては最強だ」


人間凶器「いくら打たれづよいといっても、俺のこの破壊力の前には……」


吉川  「いでよ! カメ凶器!」


人間凶器「待て待て待て。カメ?」


吉川  「うん。カメ」


人間凶器「カメと戦うの?」


吉川  「固いぜー」


人間凶器「えい」


吉川  「あっ!? 裏っ返すな! ちょっと小高いところで裏っ返すな」


人間凶器「じたばたしてる」


吉川  「畜生。しかし本番はこれからだ」


人間凶器「そうであって欲しい」


吉川  「いよいよ哺乳類の部だ!」


人間凶器「あぁ、それだけでちょっと嬉しい。というか最初から哺乳類にしろよ」


吉川  「すばやさにかけては右にでるものはいない。お前はコイツの動きを見切れるかな?」


人間凶器「俺の動体視力を侮るなよ」


吉川  「シマリス凶器の登場だ!」


人間凶器「シマ……、バカか!」


吉川  「シマバカじゃない。シマリス凶器」


人間凶器「リスじゃん! 全然、凶器部分がないじゃん」


吉川  「歯とか、すげーぜ。カリコリされたら痛いったらありゃしない」


人間凶器「速いけど、確かに速いけど! 戦う意思ゼロじゃん」


吉川  「ノーガード戦法みたいなもんだ。……ギブ?」


人間凶器「なんでリスに負けなきゃいけないんだ。戦うよ!」


吉川  「ふふ。シマリス凶器の俊敏さたるを、見切れ……あーっ! !」


人間凶器「チチチチッ。ドングリだよぉ」


吉川  「きったね! 武器使うの反則!」


人間凶器「ドングリは武器じゃない! ほぉら、ドングリ……捕まえた!」


吉川  「なんてこった。まさかエサでおびき寄せ作戦なんてことを瞬時に思いつくとは。人間凶器、力だけじゃない、頭脳も兼ね揃えたまさに戦うコンピューター」


人間凶器「ドングリごときで、そんな過剰評価されても……」


吉川  「しかし、今度の相手にはおまえもかなうまい」


人間凶器「なんだと? いよいよ本命ってわけか」


吉川  「なぜなら、お前はコイツを攻撃できないからだ」


人間凶器「くっ!? いったいどんな凶器なんだ」


吉川  「可愛さにかけては最強の刺客。チワワ凶器だ!」


人間凶器「なんでどんどんファンシーな方向にいくんだ」


吉川  「どうだ。可愛くて殴れまい」


人間凶器「かぁ~い~♪ なでていい?」


吉川  「噛むよ? 凶器だから」


人間凶器「畜生。チワワちゃんを凶器に仕立てやがって。外道め」


吉川  「どうだ。負けを認め……あれ?」


人間凶器「かぁ~い~♪ よしよし、はい、ゴロ~ン」


吉川  「バカなっ! チワワ凶器がおなかを出して服従のポーズを!」


人間凶器「お~、よしよし。……俺の勝ちだな」


吉川  「バカな、しかたない。あのお方に登場願うか……」


人間凶器「え? 四天王じゃないの? もう四匹倒したよ?」


吉川  「あれは、適当に言っただけだ」


人間凶器「まだいるのかよ!」


吉川  「四天王の上にたつ存在。ついに謎のベールがとかれる」


人間凶器「まだいるのかよ」


吉川  「四天王など、あのお方の手足にすぎん」


人間凶器「手足にもならないと思うが……」


吉川  「まさに最強の凶器。サイ凶器だ!」


人間凶器「サイッ!? あの、サイか。なるほど、やりがいがありそうだ」


吉川  「張り切ってまいりましょー! どうぞっ」


人間凶器「……」


吉川  「どうぞっ」


人間凶器「……動かないね?」


吉川  「若干、動きが緩慢ですから」


人間凶器「強そうだけどね」


吉川  「強そうなんですけどねぇ」


人間凶器「これ、もういいかな?」


吉川  「……うん。ごめん。やっぱサイ無理だった」


人間凶器「いや、別にいいけど。本物さわれたし」


吉川  「フフフ。ハッハッハ!」


人間凶器「なんだ突然」


吉川  「最強のサイ凶器を倒すとは、さすが人間凶器。しかし最後の刺客が待っている」


人間凶器「最後? 本当に最後なのね? よかったぁ」


吉川  「喜ぶのはまだ早い。最後こそ、最大の刺客になるであろう」


人間凶器「もういいよ。ちゃっちゃとやっちゃおうよ」


吉川  「哺乳動物最大の凶器! シロナガスクジラ凶器だ!」


人間凶器「シロナガスクジラ!? ここ、陸なのに!?」


吉川  「あーーーっ!? 皮膚乾いちゃってる」


人間凶器「やばいよ! 早く海水かけて!」


吉川  「わかった。海に戻すの手伝って」


人間凶器「OK。早くしないと死んじゃうよ」


吉川  「あぁ、怒られるぅ。アメリカとかに怒られるぅ」


人間凶器「いいから手を動かせ。海水をかけて」


吉川  「はいっ」


人間凶器「おりゃーーー!」


吉川  「おぉ。恐るべし人間凶器。あの巨体を海に……」


人間凶器「はぁ……はぁ……はぁ……」


吉川  「さ、さんきゅ」


人間凶器「ははっ。お前もよくやったな」


吉川  「お前がいなかったらダメだったよ」


人間凶器「それはこっちもだ」


吉川  「今までゴメン」


人間凶器「気にするな。俺たち上手くやってけそうだな」


吉川  「人間凶器……」


人間凶器「よせやい! その呼び方は卒業だ」


吉川  「なんでだ?」


人間凶器「お前を見てたら、俺なんかまだまだだって思った」


吉川  「そんなぁ」


人間凶器「おまえこそ……狂気を名乗るに相応しい」



暗転

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