浦島太郎

子供 「カメめっ! このやろー! 磯臭いんだよっ!」


浦島 「これこれ子供達、亀をいじめるのはやめなさい」


子供 「いっけねー! 大人だ。逃げろー」


浦島 「大丈夫だったかね、亀くん」


ワカメ「ありがとうございました。助かりました」


浦島 「え?」


ワカメ「もう本当に、感謝の言葉もありません」


浦島 「ちょっ、ちょっと待って。ワカメ?」


ワカメ「はい、ワカメです」


浦島 「えっと亀じゃなくて、ワカメ?」


ワカメ「はい、亀じゃないです。ワカメです」


浦島 「あれれ、ちょっと話が違うなぁ」


ワカメ「……と言われますと?」


浦島 「いや、私、浦島太郎って言うんですけど。えー! ワカメ?」


ワカメ「はい、ワカメです」


浦島 「なんでワカメがいじめられてるの?」


ワカメ「さぁ、なんか磯臭かったんじゃないですかね?」


浦島 「いや、そうじゃなくてさ。亀を助けるっていう話のはずなんだけど」


ワカメ「そうなんですか?」


浦島 「それで竜宮城とか行くっていうね、そういうはずなんだけど」


ワカメ「竜宮城は無理ですね。海草ですから」


浦島 「そうだよね。海草だもんね」


ワカメ「どうしましょ?」


浦島 「どうって、私にいわれてもなぁ」


ワカメ「じゃ、助けてもらった恩返しに、発毛を促進させてあげましょう」


浦島 「いやいや、それって成分じゃん。なんか竜宮城とかそういうロマンチックじゃなくて、ただの成分じゃん」


ワカメ「でもそれくらいしか」


浦島 「だよな。ワカメだもんな」


ワカメ「ワカメですみません」


浦島 「いや、別に謝らなくてもいいんだけど、どうしよう」


ワカメ「えーと、じゃぁ極楽な世界に連れて行くってのは?」


浦島 「できんの? ワカメにできんの?」


ワカメ「まぁ、頑張ればなんとか」


浦島 「なんだよ。そういうのあるんじゃん、やっぱ」


ワカメ「じゃ、私をマフラーっぽく首に巻いてくれます?」


浦島 「あ、自分でやるんだ」


ワカメ「すみません、海草なもんで動けないんですよ」


浦島 「はい、うっわ。すごい磯臭い」


ワカメ「で、キュッと締めてくれます?」


浦島 「こう?」


ワカメ「もっと」


浦島 「こう?」


ワカメ「もっともっと」


浦島 「なんか苦しいんだけど」


ワカメ「その苦しさを超えると極楽にいけます」


浦島 「死ぬじゃんか! 死んじゃうじゃんか!」


ワカメ「ええ」


浦島 「ええ、じゃないよ! なにしれっと答えてるの? 死なせないでよ」


ワカメ「あ、死ぬのダメ?」


浦島 「ダメだよ。なに驚いてるの。なんで初耳みたいなリアクション」


ワカメ「でも磯臭さが麻酔効果になって楽にいけますよ」


浦島 「嘘つけ」


ワカメ「じゃ、とっておきのこれなんですが」


浦島 「玉手箱?」


ワカメ「まぁ、それっぽいものです」


浦島 「どこにも行ってないのに、玉手箱かぁ。」


ワカメ「開けないほうがいいですよ」


浦島 「そうだよな。玉手箱ってのは開けたら後悔する代物なんだよ」


ワカメ「えぇ。後悔しますね」


浦島 「でもわかってても開けちゃうんだよね」


ワカメ「いや、本当にやめた方がいいですって!」


浦島 「そういわれると余計に」


ワカメ「どうなっても知りませんよ!?」


浦島 「ちょっとだけえいっ!」


ワカメ「あぁ」


浦島 「え?」


ワカメ「あ~ぁ」


浦島 「なにこれ?」


ワカメ「ワカメの詰め合わせ」


浦島 「なんだよ! なにそのショボさは!? お歳暮に貰っても持て余しそうな、このショボさは! 詰め合わせていいものと悪いものがあるだろっ!」


ワカメ「だから開けると後悔すると言ったのに」


浦島 「あぁ」



暗転



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