吸血鬼

吸血鬼「献血お願いしまーす」


吉川 「あ、献血はこっちですか?」


吸血鬼「ありがとうございます。血液型は?」


吉川 「O型です」


吸血鬼「O型! まぁ……可もなく不可もない感じですね」


吉川 「そんな言い方しなくても」


吸血鬼「本当はABが好きなんだけど。まぁOでも結構です」


吉川 「妥協されてる。こっちは善意なのに」


吸血鬼「はい。じゃ、腕を出してください」


吉川 「はぁ……」


吸血鬼「ちょっと、ガブッとしますよ」


吉川 「チクっとじゃないのか」


吸血鬼「ガブッ!」


吉川 「わぁ! 何するんだ!」


吸血鬼「あぶっ! 危ないなぁ! 急に動いて、怪我したらどうするんだ」


吉川 「だって! いきなり噛み付くから」


吸血鬼「いきなりじゃないでしょ! ガブッとしますって言ったでしょ!」


吉川 「言われたけど、噛み付くなんて思わない」


吸血鬼「他にどんなガブがあるんだ! ガブリエルのことか!?」


吉川 「いや、ガブリエルのこととも思わなかったけど。献血だと思ってたので……」


吸血鬼「献血だよ。血を吸わせてくれよ」


吉川 「血を吸わせろって……吸血鬼みたいな」


吸血鬼「吸血鬼だもん! 吸わせてよ!」


吉川 「まじで!?」


吸血鬼「まじまじ。ドラキュラだから。はい、吸わせて!」


吉川 「まじって……血を吸わせるのなんかやですよ」


吸血鬼「なんでよ! さっきまでノリノリだったじゃん」


吉川 「別にノリノリじゃなかったけど……。だって、ドラキュラだなんて思わないじゃん! 普通」


吸血鬼「一緒でしょ! 献血も、吸わせるのも。血出すんだから」


吉川 「一緒って……気分が違うじゃん!」


吸血鬼「なに気分て、ちょっとした気分屋きどりか!」


吉川 「別にちょっともしてないけど……」


吸血鬼「かぁ~っ! これだから、最近の若いやつは。なに、気分て? 全然理由になってないじゃん。そんなので納得しろっての?」


吉川 「そんな責められても……」


吸血鬼「もういい。早く腕出せ」


吉川 「やだよ!」


吸血鬼「抵抗するなら実力行使だ」


吉川 「わぁ! エイッ! 十字架だ!」


吸血鬼「わぁ……。うざッ!」


吉川 「……え? それだけ?」


吸血鬼「うざいわぁ。なんだこんなの。えい!」


吉川 「わぁ、叩き落とされた。十字架平気なの?」


吸血鬼「平気じゃないよ。どっちかというと嫌いな方」


吉川 「どっちかと言うとなんだ……」


吸血鬼「あーもう。いきなりそんなもん出すなよ。気分悪っ」


吉川 「もっと、溶けたりしてよ……」


吸血鬼「しないよ! 何で溶けなきゃいけないんだ」


吉川 「だって、十字架だよ?」


吸血鬼「あんたね、嫌いなものある? 食べ物とか……」


吉川 「……ピーマン」


吸血鬼「いきなり、ピーマン突き出されて溶けるか? 普通」


吉川 「そりゃ、溶けないけど……」


吸血鬼「でも、いい気分はしないだろ?」


吉川 「う、うん……」


吸血鬼「そういうもんだよ」


吉川 「ピーマン程度なのか……」


吸血鬼「お前さぁ……人からされて嫌な事は人にするなよ?」


吉川 「はぁ。すみません」


吸血鬼「じゃ、吸うよ?」


吉川 「やだぁ!」


吸血鬼「やじゃない! わがまま言わないの!」


吉川 「人からされて嫌な事はするなって自分で言ったじゃないか!」


吸血鬼「俺? 俺は別に血吸われても平気だもん。吸う?」


吉川 「え、いや……」


吸血鬼「そのかわり、吸ったら吸血鬼になっちゃうけど」


吉川 「やだ!」


吸血鬼「なんだよ。全部いやか! わがまま坊やか」


吉川 「だって、普通やだよ」


吸血鬼「お前ここに何しにきたんだよ? 献血だろ?」


吉川 「そうだけど……」


吸血鬼「一緒じゃねーか。あんまり考えすぎるな」


吉川 「そんなこと言われたって……」


吸血鬼「大丈夫。別に吸ったからって死んだりしないから。注射より痛くないよ」


吉川 「……本当?」


吸血鬼「本当本当。こっちはプロだもん」


吉川 「すぐ終わる?」


吸血鬼「すぐ! すぐ! 10秒」


吉川 「じゃ……。はい」


吸血鬼「あ、サンキュ! じゃ、いただきまーす」


吉川 「……っ!?」


吸血鬼「はい、ご馳走様」


吉川 「あれ? もう終わり?」


吸血鬼「終わり、終わり。全然痛くなかったでしょ?」


吉川 「うん。最初にガブッときただけ」


吸血鬼「そうなんだよ。最初にガブッとくるだけなんだよ」


吉川 「……俺、吸血鬼になったりしないの?」


吸血鬼「しないよ」


吉川 「何にもならない?」


吸血鬼「う~ん……言ってなかったけど……本当はちょっと……」


吉川 「何ッ! やっぱり騙したな! 俺、死ぬのか!」


吸血鬼「そこさ……吸ったところ」


吉川 「ここか! ここから腐るのか!」


吸血鬼「そこの吸ったところね。手でゴシゴシこすって……」


吉川 「わぁー! 死にたくないよぉ!」


吸血鬼「で、匂いかぐ」


吉川 「クッセ! ツバ臭せっ!」



暗転




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