魔球

投手 「新しい魔球を考えた」


捕手 「へぇ……」


投手 「いままでの、投球術の歴史を覆す魔球になるぞ」


捕手 「当たり前のように魔球と言い放ってるあたりがすごい」


投手 「今まであった魔球といえば、消えたり、分身したり、目の錯覚ばかりだ」


捕手 「魔球は実在したことになってるのか……」


投手 「俺はその概念を捨て、フィジカルではなく、メンタルに効く球を開発した」


捕手 「簡単に開発しちゃうなぁ……」


投手 「名づけて! 切なくなる魔球」


捕手 「名前を聞いた時点で、ある意味切なくなった」


投手 「受けてみろ! これが切なくなる魔球だっ!」


捕手 「っ!?」


投手 「大根おろしとしらすを和えた物がメインディッシュ! (ビュッ)」


捕手 「(バシッ)……え?」


投手 「吉川君って動物園の匂いするよね? (ビュッ)」


捕手 「(バシッ)あの……」


投手 「シャー芯あると思ったら、1cmしかねーでやんの! (ビュッ)」


捕手 「(バシッ)ちょっと待ちなさい」


投手 「どうだ!」


捕手 「どうだって……言ってるだけか」


投手 「言ってるだけじゃない!」


捕手 「え?」


投手 「テレパシーも送ってる!」


捕手 「言ってるだけじゃんか!」


投手 「切なくなっただろ?」


捕手 「ある意味」


投手 「成功だ!」


捕手 「ネタの鮮度の低さに切なくなった」


投手 「それも魔球の一部だ」


捕手 「うそつけ」


投手 「何番目のがよかった?」


捕手 「……というか、正直、よく聞こえなかった」


投手 「なんだとぉ!」


捕手 「なんか、怒鳴ってるのはわかったんだけど……」


投手 「それは、お前がキャッチャーのポジションにいるからだ。バッターボックスなら聞こえた!」


捕手 「そんな無茶な。50cmも変わらない」


投手 「変わるの!」


捕手 「大体、切なくなって、何がいいんだ」


投手 「いいか? 切なくなると、涙ぐんじゃうだろ? そうすると目がにじんでボールを捉えづらくなる」


捕手 「随分遠まわしな……」


投手 「そして、バッターはバッタバッタと三振。俺は最多勝投手」


捕手 「さりげなく駄洒落をはさみやがった……」


投手 「プロとしての栄冠をほしいままにしたまま惜しまれつつ引退」


捕手 「都合のいい話だ」


投手 「そうして開店した焼き鳥屋が大当たり。年商100億万の大企業に成長」


捕手 「まだ続くのか……」


投手 「ケーブルTVの今日のお金持ちのゲストとして呼ばれ「いやぁ……今日の繁栄は、すべてあの魔球のおかげですね。ガッハッハ……」と語るのだっ!」


捕手 「長いスパンの魔球だなぁ……」


投手 「そんなわけで、今度はバッターボックスに立ちなさい」


捕手 「え~!」


投手 「魔球第二弾を見せて差し上げよう」


捕手 「もういい。飽きた」


投手 「バカッ! 第二弾はすごいぞ! 大爆笑魔球だ」


捕手 「魔球の前に、お前に失笑せざるをえない」


投手 「受けてみろ! 大爆笑魔球!」


捕手 「っ!?」


投手 「この間、パーティーに出席したときの話なんだけど、そこでスティーブのヤツがこんなことを言い始めたんだ」


捕手 「アメリカンジョークかよ」


投手 「メジャー進出も視野に入れているからな!」


捕手 「視野に入れる必要性が見出せない」


投手 「スティーブのヤツが、僕はこの間、ワニを食べたんだ。なかなか美味だったよ。君は何か変わったものを食べたことあるかい? ってね。だから、僕はこういってやったんだ」


捕手 「長い! 早く投げろ!」


投手 「ごめん、もうちょっと!」


捕手 「お前、それボークだよ!」


投手 「邪魔しないでよっ! これから大爆笑なんだから」


捕手 「逆ギレかよ」


投手 「だから、僕はこういってやったんだ。僕は、あんまり変わったものを食べたことはないけど……昨晩、君の奥さんをいただいたよってね! (ビュッ)」


捕手 「(カキーンッ)」


投手 「バ、バカなっ! ?」


捕手 「バカはお前だ」


投手 「まさか、お前……」


捕手 「つまらなかった」


投手 「そんな、今のは……」


捕手 「オチ読めた」


投手 「切なくなる打球かっ!?」


捕手 「勝手になれよ……」



暗転




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