水神とナイフと反省、或いは『祈り』に対して僕が思うこと
狐
講評へのお礼と反省会
第一回イトリ川短編小説賞、参加者&評議員の方々に、お疲れ様でした!
僕も参加者の一人として自作を川に流させて頂いたのですが、どの作品も魅力的でしたね……。
『水神とナイフ』
https://t.co/G8MP1f4z8j
第一回イトリ川短編小説賞 講評
第一回イトリ川短編小説賞 大賞は 帆多+丁さんの『まるで明日が来ないかのように』に決定|イトリトーコ|note(ノート)
https://note.com/itori_irodori/n/n89d49835643b
頂いた講評へのお返事も兼ねて、自作の反省会をやっていくよ!!
〈謎のかわいいちゃん〉
水神によって村の水を奪われたレヒトと、水神による水害のために村を失ったエイハブが、それぞれの望みを叶えるため水神に対峙する物語です。
まず、水神様が美しいですね。龍とは書かれていませんが、その特徴は東洋的な身体の長い龍の姿でばっちりとイメージが浮かびます。水を奪い人々を乾きで苦しめ、また別の場所では水を降らせ人々を押し流す。人間のことなど全く意に介さない様子がまさに神らしい。そんな神にナイフ一本で立ち向かい神殺しをしようと試みるエイハブのなんと勇ましいこと! 水神を殺す間際のエイハブのセリフ「神が災害を起こす時代は終わったんだよ」がとても印象深く、これはかなり現代的な物語なのだと読めました。
レヒトもエイハブも生き生きと描かれていて素敵です。エイハブ、いいですね……。
さて、かなり完成度の高い作品故に、逆贔屓ということで笑
前編と後編に分かれた物語の、前編がレヒト、後篇の過去回想でエイハブ、そしてまたレヒトと視点が移動しますが、レヒト視点で統一しても良かったんじゃないかと思います。タイトルが『水神とナイフ』とあるように、どちらかというとこれはエイハブに寄った物語ではないかと思うので、全編を通してレヒトという語り部を一人据え、レヒトから見たエイハブといった形で物語を進めると、全体としてすっきりと読め、エイハブというキャラクターも、レヒトというキャラクターも、その交流から浮かび上がらせることができるのではないかということを思いました。
〈狐のお返事〉
的確な講評、ありがとうございます!
東洋的な龍、川の流れの象徴と空を泳ぐ時に絵的に映えるから採用したのですが、砂漠と荒野がある世界観にそぐわなかったので作中人物には『巨大な蛇』と言わせたんですよね。「この描写から龍を見出してくれ……」というめちゃくちゃ読者を信頼したやり方だったんですけど、伝わってよかったです! (着想元はゼルダBotWに出てくるフロドラです)
逆贔屓、光栄です! 視点の統一に関してはエイハブのキャラ設定から起こった事故でして、彼自身が自らの過去をレヒトに語りたがらない寡黙な男であるが故に彼の内心を推し量る際に視点変更せざるを得なかったんですよね……。結局エイハブ側に描写が偏ってしまったのも反省ポイントだったので、レヒトに描写をもう少し割くべきだったな……。
エイハブの水神に対する想いをレヒトが知ることは作中時点ではなかったので、この後仲良くなって語られるといいね……。
〈謎の夜更しさん〉
神なる者の扱いの変遷を、そして自然災害の克服を描いた作品として読みました。
水神は人々を救おうとも滅ぼそうともしておらず、ただひとつの生命として生きています。人間の事など歯牙にもかけずただ生きているだけであるときは恵みを、ある時は災いをもたらす存在として描かれます。また、おそらくは熱中症を「太陽に愛された」と表現するのが凄く良いです。神たる者は無関心だろうと愛だろうと、その意図に依らず人々に恵みも害も与える、ただただ大きな影響力の存在です。
そのような神に対し、祈るレヒトと殺そうとするエイハブ。二人の対比は面白かったです。レヒトは水神を祈りに応える、人格ある者としてとらえているのですが、エイハブは影響力の大きな生物としてとらえています。故郷を滅ぼされた憎しみでなく、人がただ大きな力に翻弄されることへの抵抗が彼を動かしています。
これは治水、ひいては人間による自然への抵抗の物語なんですね。川を引いて旱魃を克服し、堤で堰き止めて水害を克服し、避雷針を立てて雷を克服し(水神との決着も避雷針でしたね)、今や地震や台風にも牙を打つ人間の、その抵抗の始まりです。エイハブの「神が災害を起こす時代は終わった」というセリフが全てを物語っています。
面白いテーマに挑みつつ、ファンタジーとして世界もしっかり描かれており、満足感の高い作品でした。
〈狐のお返事〉
「太陽に愛された」の部分と「神が災害を起こす時代は終わった」はエイハブのキャラクターを端的に表すセリフとして設計しました。
神を生物として殺そうとする男を書く際に気をつけたポイントとして、“神の存在を矮小化しない”という点に気をつけました(伝わっているかはともかく)。ただの生物として殺す、とすると現代的すぎるんですよね。水神の実在が作中の人々に信じられていない時点でその存在は「時代遅れ」のものだと考えるのですが、それに執着する男はともすれば時代遅れなほどの信仰を持つ必要がある。その点で祈ることと殺すことは僕の中で同軸なんですよね。
水神への執着を果たすことで、エイハブは新しい時代に進んでいける。彼が最後にナイフを手放すのは、そういう意味もこもっています。
治水などの自然災害への人間の対策の比喩という視点は、裏テーマとして入れた部分ですね。ちょうど比喩的な川の氾濫を対処した後に書いた物だからというのもあるのですが、「地元の大蛇退治の逸話が川の治水の暗喩である」という説を昔何かで読んだ記憶から引っ張り出してきました。そういう意味で「亞良川 土人形と河童の怪」は民族学的にルーツが近いです。
〈謎のネオサイタマ〉
タイトルと冒頭のセリフのセンスとキャッチコピー…あ、これ絶対好みだな、と確信しました。
エイハブが水神に執着するのは憎しみというよりは、成すすべもなかったあの日の無力な自分を克服する、水神という余りに強力であるがゆえに理不尽な存在を自分は否定しなければならない、という色々なものが入り混じった複雑な感情に見えます。
エイハブは水神は生物としてただ有り続けているだけで、人間を叩き潰そうだなんて考えていないことを既に知っているんですけど、
それでもエイハブは自分の喪失感や様々な想いを抱えていたが故に復讐に舵を切る他なかったんだと思います。あとその憎しみに近い感情と水神への羨望の感情がセリフの中に混沌として一緒くたになっているところもすごい良いですよね。
エイハブとリヒトの関係性をどう描くのかという点については、そんなに重たく描かれないんですけど「俺みたいな捻くれた大人にはなるなよ、少年」というエイハブのセリフにすべて表現されているところがすごいですよね。
キャッチにもある通り、祈りと闘争という二項対立っていう構成がとてもすきです。理想と現実の衝突。
結果どちらも否定していないところに狐さんの精神性の高さが表れていると思います。
ただ、同時にキャラと一定距離を持っているからこそ出てくる「ああ、そうゆう考えもあるよね」的な中立さでもあるようにも感じたので、個人的には作者さんの本音ってどこなんだろう?というのは少し気になりました。
エイハブが祈りを捨て、神を殺すことに決めた描写や祈りと闘争という対比は確かにエモなんですけど、
それが物語のテーマに対して、又はテーマの中でどうゆう意味を発揮するのかというのを知りたいとおもいました。(読めてないだけでしたらすみません)
水神の描き方がとても面白くて好きなんですよね。美しく理不尽なほど強力なただの一生物。
狐さんは物語の着地のさせ方や構成の仕方が突出して優れていると感じていたので、描くべきところや読み手にとってのエモいポイントをきちんと押さえた上で8,000字の中に的確に散りばめているので、やっぱりすごいなあと思いました。
〈狐のお返事〉
僕の創作はワンアイデア発展型なのですが、この作品においては「神殺し、やりてぇ〜〜!!」という部分から始まりました。僕自身の嗜好として「ヒトに理不尽を強いる上位存在は殺さねばならない」という思想があるのですが、明確に神を悪にすると自分の中のエモセンサーが反応しなかったんですよね。そこでモビー・ディックを神として描いたとされる『白鯨』をモチーフとして引っ張ってきたのですが、ここで祈りに対する僕自身の思想とバランスを取りたがるクセが現れました。
僕自身は神やら祈りは「自分ができる努力をやり尽くした果てにすがる物」だと考えているので、エイハブはその前段階に“殺す”という選択肢があったから為しているというロジックです。だからまず祈ろうとするレヒトの願いは水神の逆襲によって失敗しかける。
ですが、同時に祈りが叶うことそのものにカタルシスを感じる僕がいる! というわけで、この作品では祈りそのものを否定していないんですよね。エイハブは祈りを無為な物だと考えているのですが、幼少期の彼の命を救ったのは「助けてほしい」という神への祈りも何%か寄与しているのかもしれない。
結果的に自己の本音を隠すの、本当に悪癖なので良くない(なんか恥ずかしくて滅多に出さないんですよね)。強すぎる思想は雑味にならないかなーって思いながらバランスを取ってるので、もうちょっと自己の本音をブチ込みたいです!
講評をくださった闇の評議員の御三方、Twitterとかレビューで感想をくださった光の評議員の方々に敬意を示しつつ、反省会を閉じさせていただきます。次こそは大賞狙うからな!!!
水神とナイフと反省、或いは『祈り』に対して僕が思うこと 狐 @fox_0829
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