【ホラー】寿命がわかる体重計

しんみつ

寿命がわかる体重計

 星井栞、四十八歳、主婦。


 今年の春から一人息子のたけるが一部上場企業で働くことになり、家を出た。


 武を授かってからの二十数年間は本当にあっという間だった。


 子育ても一段落着き、時間ができたらやろうと思っていた手芸も早々に飽き、人生の余暇とでもいうべき時間を持て余していた。


「よし、決めた」


 ずっと子育てを言い訳にしてきたが、この弛んだお腹を引き締めることにした。


 学生時代はバレーボール部に所属していたが、この歳になってやるかといわれれば、答えはやりたくないだ。


 ところで、自分の体重はいくつなのだろうか。


 もう随分と長い間、体重計に乗った記憶がなかった。


 家にある体重計は、武が高校生に上がった頃に調子が悪くなり、それきりだ。


 栞はパソコンの電源を付け、通販サイトを開いた。


 最近の体重計はどれも機能が充実していて、目移りしてしまう。


 体重、体脂肪率は勿論、皮下脂肪や基礎代謝まで丸裸にされてしまう。


 そんな中で、栞は一つの体重計に目が留まった。


「寿命がわかる体重計……?」


 入力したデータと実際に測定した数値から、AIが寿命を算出するという仕組みだそうである。


 少々胡散臭くはあるが、栞はこの手の占い染みたものに目がなかった。


 値段も決して張る物ではなかった。


「注文っと」


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 翌日、注文していた体重計が届いた。


 割と大きめのダンボール箱に入っていた。


 栞は誕生日プレゼントの包装紙を開けるようなうきうきとした気分で、早速体重計をダンボール箱から取り出した。


 今時コンセントが必要な体重計なんて珍しいと思いながら、リビングのコンセントが開いていたので、そこに体重計をセットした。普段は掃除機に使用している場所である。


 説明書を左手で広げ、液晶パネルを操作して初期設定を入力していった。


 性別や生年月日の他にも、職業や一週間の運動量も入力した。


『初期設定が完了しました。続けて測定する場合、本製品の上に乗り、両手で計測バーを握ってください』


「はいはい」


 安っぽい機会音声に従い、栞は体重計に乗って計測バーを握り締めた。


 一分ほどで、測定結果を知らせる電子音が鳴った。


 栞は液晶パネルに視線を落とした。


「え?」


 そして、思わず声を上げてしまった。


 液晶パネルには、今日の日付が表示されていたからだ。


「何これ、壊れているの?」


 薄気味悪い、そう思った直後だった。


 突然、手の平から腕にかけて物凄い激痛が走った。


 慌てて計測バーを離そうとしても、手の指がまるで自分のものではないように硬く閉じていた。


 電流によって、指の筋肉が収縮していたのである。


 やがて栞の意識は遠のき、体はゆっくりと後方へ倒れ、床に後頭部を打ち付けた。


 死因は感電死だった。


 計測対象の居なくなった体重計の液晶パネルには、以下のように表示されていた。


『貴女は人類社会にとって不要と判断し、今日までの寿命と決めました』


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「九月四日、お昼のニュースです。『寿命がわかる体重計』のAIが人体に危険を及ぼしかねない不具合を起こしており、そのことを隠匿していた事件について、開発元の■■■■■社は、深くお詫び申し上げると共に、今後このようなことが起らないよう開発体制を見直し、再発防止に向けた努力を行うとのことです。また現在、使用しても危険はないとのことです。幸い、今回の不具合で怪我人は出ていないとのことです」

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