第7話 いいものを選びますね

 目の前に全裸の女が立っている。


 俺の視線はその中の一点に注がれていた。そう、ピンク色の綺麗な乳首だ。


 俺はそれを優しくつかんだ。そして徐々に力を入れ強く圧迫したところで、緩める。これを何度も繰り返し、ねちっこく乳首を刺激する。


 俺は何回も何回も執拗に責めたてた。ふと視線を下げると、彼女はメス特有の濃厚な白濁液を垂れ流していた。むわっとしたメスの匂いがあたり一面に漂う。


 そう、俺は――――




「モォォ〜〜〜、モォォ~~~」


 牛の乳を搾っていた。


 まあ、なんというか……こんなオチが待っているとわかっていた。


「ツバキさま、思う存分におっぱいを搾っていいですよ」


 ここはエルの家からすぐの場所にあった牛の放牧地だ。どこまで続いているかわからないほど広い敷地内では少なくとも数十頭の牛が放し飼いにされ、それぞれ草を食べたり寝たりしている。


 この場所は標高が高いようで洗って貰った制服の上に、借りた毛皮のコートを着ていてもまだ少しだけ肌寒い。けれどエルはヒラヒラしたロングスカートの服をサラッと一枚着ているだけだった。見ているだけで凍えそうな薄着だが、普段ここで生活しているから寒さに慣れているのだろうか。


「どうですか? 神器は使えるようになりそうですか?」


 エルは期待に満ちた眼差しで尋ねてくる。


「どうだ? 相棒」


 俺はエルに聞こえない声量で相棒にエスカレーションする。自分では判断できないことをできるやつに訊くのは大切だ。


『NO、欲望はまったく満たされておりません』


 だよな、知ってた。これで欲望を満たせたらすげぇ変態だろ。


「うーん……。もう少し経験値が必要かな……」


 エルには適当にはぐらかして回答した。


 俺が搾りたかったのは本当はエルの乳首なんだよなぁ。


 まあ、牛を放牧しているエルが俺に『おっぱいを触りたい』と言われて、真っ先に思い浮かんだのが彼女が飼育している牛の乳だったのは仕方がない。まさか同性である俺がエルのおっぱいを触りたがっていると思う方が不自然だろう。


 俺は一刻も早くスキルが使えるようになりたい。エルはおっぱいが超デカいし物凄くかわいい、俺のストライクゾーンど真ん中だ。乳首を見たり触ったりすれば、間違いなく俺は満足しビーチクスキルが目覚めるだろう。


 だが、今さら『牛じゃなくてお前の乳首を触らせてくれ!』などと言えなかった。


 彼女は、俺が牛の乳を搾れば神器を使えるようになると無邪気に信じ込んでいるのだ。今も俺の一挙一動に熱い視線を送っている。倒れているところを助けて貰った恩もあるので勘違いを指摘して落胆させたくないし、期待も裏切りたくない。


「さて、どうしたものかな……」


 いいアイデアが思い浮かばない。


 ひとまず目の前の作業に集中することにした。乳の下に配置したバケツには溢れそうなほど生乳せいにゅうが溜まっている。


「これはどこに運べばいいんだ?」


 バケツを指さして、隣で作業しているエルに確認した。


「運ぶのも手伝ってくださるのですか! それなら、家の前にある大きな樽に流し込んで欲しいです。そこでバターかチーズに加工するんです」


「了解した。エルにはお世話になったからな、手伝わせてくれ」


 そう答え、生乳でいっぱいのバケツの取っ手を掴む。見た目は重そうだったが軽々持ち上げることができた。職業補正で肉体が強化されているせいだな。


 乳をバケツに溜めて運ぶ、この作業を数回繰り返した。つい最近まで学校に行って帰るだけの生活を繰り返していた俺には重労働だった。


「ツバキさま、手伝っていただきありがとうございます。おかげでいつもよりずっと早く搾乳が終わりました」


 十分な量が溜まったようだ。エルは両手を合わせ満足そうな顔で作業を切り上げた。


 ふぅ……これはなかなかキツイ仕事だな……。


「今日の分はバターにするので、このまましばらく放置します。わたしはこれから町に向かいますが、ツバキさまはどういたしますか?」


 正直もう疲れた休みたい…………が、町か。町があるのなら行ってみるべきだろう。


「俺も一緒に行っていいか? 町を見に行きたいんだ」


「もちろんです! ですが町までは時間がかかってしまいますが、よろしいですか?」


 町は近くではないようだ。まあここ寒いしな、付近に何人も住むのは厳しそうな気候だ。


「大丈夫だ、問題ない」


「わかりました! では準備をするので待っていてください」


「一番いいのを頼む」


「はい! いいものを選びますね!」


 ちょっとふざけてみたが意味はどう伝わったのだろうか? エルはいったん家に戻り、数分後かごを両手に持って出てきた。かごにはチーズやバターが入っていた。


「ツバキさまのお言葉どおりに選りすぐりのものを持ってきました! これを町に売りに行きます!」


 余計なことを言ってしまったようだ。


 それにしても自分で作った乳製品を売るところまでがエルの仕事なのか。忙しいな。


 俺はエルに頼んでかごを片方受け取り、町までの道を下り始めた。




    ◇    ◇




 歩き始めて3時間くらい経過した。想像より遠い、足が疲れた……とんだデジャヴだ。だが今回はエルが定期的に水をくれるので倒れはしないだろう。


「もう少しで町が見えてきますよ」


 エルの言う通り、ちょっと歩いたら町が見えてきた。さきほどからずっと下り坂だったが、まだ標高が高いようで町全体を見下ろせた。


 屋根を暖色で統一した石造りの建物がずらりと並んでいる。ひときわ目立つ尖塔、町内を流れる川にかかっている石橋、中央部には大きく広がった円形広場、多種多様なランドマークが確認できた。


 町は遠目からでも大勢の人で賑わっているのが窺える。エル以外の人を見るのは久しぶりだ。




「あそこが目的の町――<アルージュ>です」

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