第426話 恐怖のカット隊①

 1回表1アウトランナーなし。続く2番バッター東野を、比嘉はノーボール2ストライクに追い込んでいた。


(先頭バッターに15球も使ってしまったばってん、ここからは最短で抑えていくたい)


 そう意気込んでいたも束の間、また例のあれが始まった。


「カーン!」


「ファール!」


「カーン!」


「ファール!」


「カーン!」


「ファール!」


(まさかこのバッターまでカット打法でくるとは……ていうかもしかしたら、今日初めて試合に出てきた1番から6番までの控え選手全員、このカット打法で球数を削ってくるつもりじゃないたいか?)


 その西郷の不安は見事に的中していた。


(くっくっく。ええぞええぞカット隊。その調子でどんどん比嘉の球数を消費させるんや)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 これは昨年、大阪西蔭高校野球部が夏の甲子園を優勝してから数日後の出来事ことである。


 大阪西蔭高校野球部には100人を超える部員が存在するが、その内甲子園の地方予選にベンチ入りできる1軍のメンバーはわずか20人。さらに全国大会となるとベンチ入りできるのは18人しかいない。その狭い枠を巡って、部内では壮絶なレギュラー争いが行われているのだが、中には半ば諦めかけている部員も多数存在した。


(強豪校のチームに入って強くなりたい。そしていつかはレギュラー入りして全国の舞台で活躍したい。そう思って大阪西蔭にきて早1年以上が経ったけど、まさかここまでレベルが高いとはな)


(このまま練習を続けても、今いるレギュラーに勝てる気がしない)


(他の学校なら俺でも十分出られそうなのにな)


(入る学校間違ったかも)


 2軍のグラウンドでそんなことを考えながら練習していた部員達の元に、いつもは1軍のグラウンドにばかりいる戸次監督が珍しくやってくると、突如こんなことを言い出した。


「みなさん、厳しいかもしれませんがこれが現実なのでここではっきりと言っておきます。今1軍にいるメンバーは歴代最高クラスの人材が揃っています。ですので、まだ伸び盛りの1年生ならまだしも、未だ2軍でくすぶっている2年生部員のほとんどは、今のままでは1度も1軍に入れないまま引退することになるでしょうね」


 戸次監督の厳しい言葉に、下を向く部員達。


「そこでみなさんに提案です。これから先、うちの野球部がさらに強くなるため、カット打ちの技術に特化したカット隊を作ろうかと考えています」

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