第362話 理事長からの呼び出し②

(納得してもらえるかねだと? ふざけやがって。ただでさえうちのチームは、1年生が特待生枠で入った比嘉しかいない、選手層の薄い危機的な状況だっていうのに、おまけに貴重な特待生枠まで奪われたら、いずれうちの野球部は衰退していくぞ。ここは特待生枠廃止の可能性を、何としても0にしなくては)


「理事長、それはあんまりですよ。去年した約束を反故にするなんて」


「約束を反故にねえ……そういえば鈴井監督、確か去年その約束を交わした際に、わざわざ川合君を連れてきて、中学時代はエースで全国大会に出場した優秀な選手だと紹介していましたよね? ですが実際には、全国大会に出場したのは野球ではなくバレーボールだった。こんな詐欺的な手段を使って交わした約束など、反故にされても文句は言えないと思いませんか?」


(マジかよ。全部バレてたのか。ここは嘘がバレてクビにならなかっただけでもよしとして、この条件を飲むしかないのか……いやいや。ここで負けてはダメだ)


「理事長、私はあの時、一言も川合が野球で全国大会に出場したとは言っていませんよ。私はあくまで、川合がバレーボールで全国大会に出場できるほどフィジカルに恵まれた、将来有望な選手だということを説明したに過ぎません」


「屁理屈を言うな! あの話しの流れで全国大会に出場したと聞けば、誰だって野球でだと思うだろうが!」


(やばい、さすがにこの言い訳には無理があったか)


「さては鈴井監督、そこまでこの条件を嫌がるということは、甲子園で1回も勝つ自信がないということかね?」


「いえ、そんなことは……」


「ならばさっさとこの条件を飲みなさい!」


(万事休すか……いや、ちょっと待てよ。よくよく考えてみれば、うちのチームは全国的に見ても屈指の実力を誇る、千葉の絶対王者龍谷千葉を破った三街道をさらに破って、甲子園出場を勝ち取ったんだ。今のうちのチームの実力なら、甲子園の初戦を勝ち上がるくらい余裕何じゃないか? いや初戦どころか、優勝だって夢じゃない。ならば……)


「わかりました。ただし、逆にこちらからも条件を追加させてください。甲子園で1回勝てば特待生枠を1人、2回勝てば2人、3回勝てば3人というように、1回勝つごとに特待生枠を1人ずつ増やしてはいただけないでしょうか?」

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