20話:お前の敗北を認めない


 場所は変わって、久保田がかかえている豪邸前。決闘はここで行われようとしていた。


 決闘の当事者である俺と久保田辰雄。それを見守る藍野さん。さらには久保田の部下が数十人、俺たちを取り囲んでいた。

 妙なことに、奴らは全員刃物や銃を携帯している。決闘が終わったら俺を消す気でいることが丸分かりだ。

 この決闘が茶番だってことがつくづく思い知らされていてアホらしく思う。

 我慢だ、目の前の野郎を潰してからあいつらも潰すとしよう。


 「勝敗条件は単純。相手が戦闘不能になるか、戦意を喪失させるかだ。戦闘不能になる際はそいつの生死は問わない。

 それと、武器の使用も認められる…」


 久保田が悪意ある笑みを浮かべながら懐から短銃を取り出した。藍野さんが息を呑んでちょっと、と苦情を言おうとする。


 「大丈夫。あんな玩具で俺は倒せない。藍野さんなら分かるだろ」


 藍野さんはこちらを心配そうに見つめつつも小さく頷いて下がった。

 

 藍野さんには俺の実力を明かしている。目の前で全力を披露して、それでも俺の傍にいてくれる彼女を、異性として好いている。

 カッコいいどころか少々惨いところを見せることになりそうだが、藍野さんには俺が勝つところを見てもらおう。


 「武器を使ってもいいんだぞ?まぁあればだけど。

 ああ俺の部下たちには貴様に武器を貸し出さないよう言ってあるから無駄だぞ。くくく…」

 「要らねーよそんなもの。お前を潰すのに玩具なんか必要あると思うか?」

 「ぐ……強がりを言いやがって…!貴様をもう藍野さんの傍に居させやしない!」


 定位置に移動して、始めと言葉が出た瞬間、久保田は短銃を構えて躊躇無く俺の脚へ発砲した。

 俺はそれを難なく避ける。

 

 「な……クソっ!射撃には自信があるこの俺が外すだと!?」


 焦りの声を出して、次は俺の左肩を狙って発砲した。

 俺は飛んでくる弾丸をひとつまみの要領で掴んで止めてみせる。


 「なっ……!?そん、な」


 俺のアクションに久保田は放心してしまう。その隙を逃すはずもなく、一瞬で久保田の真横に移動して、銃を持っている腕を手刀でスパッと切断した。


 「あえぎゃああああ"あ"あ"あ"あ"!?!?」


右腕の断面から血の噴水が噴き出て、それを絶望した顔で見つめる久保田からは早くも戦意が喪失しようとしていた。

 もちろん、こんなもので終わらせる気はない。


 「し、勝負ありだ!」「すぐに手当てを!」「辰雄様ァ!!」


 部下どもが血相変えて久保田のところへ駆け寄ろうとする。それを俺が許すはずもなく、近づいた部下どもの脚を全て蹴り砕いてやった。


 「「「ぎゃあああああ!?」」」

 「誰が決闘に割って入っていいって言ったよ?まだ途中だろうが。かってに入ってんじゃねーよクズども」


 俺の言葉を聞いた部下どもは顔を青くさせる。


 「ど、どう見ても決着だろうが!?もう終わりだ『メキャ』ーーーげぎら!?」


 あまりにもぬるいことを抜かしたのでぶん殴る。


 「まだ本人の口から『僕の敗けでちゅ』って聞いてねー限りは続行だ。

 つーかお前らも俺がこうなったら……いやこうなっても続行するつもりだったんだろ?ご都合主義が誰にでもあると思ってんじゃねーぞ甘ちゃんどもが」


 そう言って残りの部下どもも掃除してからさっきから泣き喚いている久保田のところへ戻る。そこへ藍野さんの声が入ってきた。


 「あ、あの…もう良いと、思うんだけど。流石にこれ以上は」


 戸惑っている藍野さんに、俺は優しく微笑む。


 「優しいんだね藍野さんは。けど…こんな奴に優しさなんて要らねーんだよ。君の意思を無視するような連中に情けなんかかけちゃいけない。俺は自分の気が済むまでこいつに制裁を加えるから。もう少し待ってて欲しい」

 「そ、そんな…」


 そう言ってから久保田を強引に起こす。切断面を思い切り圧迫して止血してやる。


 「こ、こうさんーーー」

 「きこえなーーーい!!ここまで俺をコケにしておいて、こんな程度で終われると思ってんじゃねーだろうなァ?」


 久保田の言葉をわざと遮って、地面に叩きつける。

 ぴげらっと奇声を上げる久保田をさらに蹴り転がしまくる。


 「藍野さんはお前と婚約なんて御免被りたいそうだぞ?お前彼女の意思をちゃんと汲んだことあったか?乗り気ですらない婚約なんかさっさと解消するのが普通だろうが」


 蹴る。


 「それを未だに未来の嫁だ何だと……キモいんだよクソ野郎が」


 蹴る。


 「何が降参だ?お前らから一方的に仕掛けてきた決闘だろうが。なにお前の方から勝手に降りようとしてんだ?許すわけねーだろぬるいんだよ」


 蹴る。


 「ホラ立てよ。立ってまた銃を突きつけて撃ってみろよ。さっさと立てよ腰抜けがぁ!!」


 蹴って蹴って転がす。しまいには頭を踏みつけてミシミシいわせながらマウントを取る。

 心が折れてるのはとっくに知っている。だがそれがどうした。こういうクズを俺は潰してたくてたまらないんだ。追い詰めてへし折って、何もかもを潰してやる…!


 「ひっ、ひいいい!ごめんなさい!俺が悪かった!!も、もう俺の負けでい『ガスッ』ーーーでびぐぁ!!」

 「つれないこと言おうとするなよ?もっとやろうぜ?男と男の決闘なんだ。お互い納得するまで戦おうや」


 敗北宣言を妨げて甚振りをさらに延長する。

 部下どもの止めてくれ〜と泣き懇願もガン無視して踏みつけたり蹴り転がしたり地面に叩きつけたりを何度も何度も繰り返す。

 

 決闘が終わったのは、精神が完全に崩壊して廃人と化した久保田を確認した時だった。

 日はとっくに暮れていた。腹いせに久保田の豪邸を粉々に消し飛ばして奴の部下どもを全員ミンチにしてからその場を去ることにした。


 「秀征さん……私のことを想ってくれてるのは嬉しい。

 けど……あれはやり過ぎだと、思うの」


 帰り道に藍野さんにからそんなことを言われる。


 「無理だよ…。俺たちの恋仲を邪魔するクズどもは、俺の気が済むまで痛めつけるって、ぶっ潰すって昔から決めてるんだ。悪いけどこの方針は変えないよ。

 俺の為でもある限りは…」


 憂いの眼差しを向けられているのを感じながら、俺たちは放課後デートの続きをするのだった。



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