11話:ヒロインとの出会い(ルート:隠れた美女子高生)



 その子と知り合ったきっかけは、「猫」だった。

 入学して一月が経った頃のある日の帰り道のこと。日課としているマラソンダッシュをしようとした時に、小さな猫がこちらにすり寄って絡んできたところに、「その少女」は現れた。


 「わぁ!その猫ちゃん、自分からは人にすり寄ったりはしないのに、珍しいです!」


セミショートの黒髪に白のカチューシャを付けて可愛らしい頭のやや小柄の少女は、丸い目をキラキラさせて俺と猫を見ていた。

 

 「猫は大抵は初対面の人間にすぐ懐くことは無い生き物だからな。その猫もその一匹のはずだけど…。

 君は、よくここに来るの?この猫を知ってるようだから…。

 俺は安地葉五味高校1年の吾妻だ」


 「あ…ごめんなさい、いきなり…。

 私も同じ学校の同じ学年です!

 狭山睦月さやまむつきって言います!」


 これが彼女との出会い。

 そこからは、トレーニングを中断して睦月と会話をした。クラスは隣の2組で、美術部に所属している。猫をよく描いているらしい。

 とにかく猫が大好きで、さっきの猫をこの河川敷で見かけて以降、ここに通いつめていた。彼女との出会いは遅かれ早かれってやつだったのかもしれない。


 それ以降も放課後のこの時間で睦月と会っては、会話したり猫たちと一緒に遊んだりと交流を深めて……俺たちの関係はいつしか恋仲へと発展した。


 睦月は前世と違って学校中の男子どもから注目される子ではなかったので、鬱陶しいアンチどもの邪魔されることなく彼女と素敵な青春期を過ごすことができた。



 かと思ったのだが、この恋愛ルートにも、俺のアンチどもが湧いて出てきた。

 

 睦月と付き合い始めてから2ヶ月経ったある日の昼休み。教室で一人飯を終えてスマホで動画視聴していると、クラスの男子数名による会話を耳にした。


 「隣の2組にいる狭山って女の子知ってる?最近あの子可愛いって話をそのクラスの奴から聞いたんだけど」

 「俺その子見たことあるんだけどさー。今まで知らなかったよ、あんな可愛い子が隣のクラスにいたなんて。聞くと同じクラスの奴らもあの子が可愛いことに気付いたのって最近らしいぜ」

 「隠れ美少女ってやつか。イメチェンでもしたのかな」


 どうやら睦月のことについて話しているそうだ。確かに最近の睦月は出会った頃とは見た目が良い意味で変わったな。カチューシャを花柄に変えたり、髪型を少しおしゃれにしてたり、声が可愛くなってたり……これは元々か。とにかくより女性らしくなったと言える。


 「でよ、今まで目立たなかった子だからまだ彼氏とかいないと思うんだよな。俺告白してみようかと思ってるんだ」

 「あー、そういうことならもう手遅れみたいだぜ?あの子、もう付き合っている相手がいるんだとさ。可愛くなったのも付き合ったことが原因じゃね?」

 「はぁ!?彼氏もういるの?んだよせっかく仕掛けようって考えてたのに。誰だよ彼氏は?どうせ大したことないに決まってーーー」

 「睦月の彼氏は、俺だけど?」


 信号をキャッチした。アンチが悪意を放つ信号をな。睦月と付き合っている俺への勝手な悪口を見過ごす程、俺は寛容ではない。


 「は……何いきなり?つーか、彼氏?お前が誰の?」

 「今お前らが無駄にデカい声で話してた人…狭山睦月のだ。俺があの子とお付き合いしている男だ」


 俺の乱入と自己紹介に、談笑していた男子3人はしばし呆然としていたが、俺の姿をじっと見るなり態度を変える。何やら俺を格下と捉えている感じを出してきやがった。

 悪意の波動が伝わってくる。


 「はっ、どんな彼氏かと思えばまさかうちのクラスにいるとは。しかも何だよこいつ。こんな奴クラスにいたっけ?」

 「吾妻って奴じゃなかったっけ。確かぼっちだよこいつw」

 「そんで見た感じ顔は普通で、勉強や運動で目立ったところも無し。つまりどこにでもいるド平凡で何の取り柄も無い男…てか?ぶふっ」

 

 「……」


 調子に乗ったモブカスどもは、声を大きくしてさらに俺を侮辱しにくる。


 「おいおい、こんな大したことない奴が付き合えるとか、案外ちょろい子なんじゃねーの、狭山って子は!」

 「少なくともこいつよりはモテる自信あるから、今度俺あの子に告白しようかなー!」

 「現彼氏の前でそういうこと言ってやるなよなー、ぶふっ」

 「はっ構わねーよ!こんなぼっち野郎に何か出来るわけでもあるまい。見た目も弱そうだしw」


 俺を指差して好き勝手に言うモブカスども。その発言を聞いたクラスメイトたちも俺を見世物にして笑っている。

 彼氏である俺の前で睦月に告白しようと言い出し、しかもその気持ちは本気ではなく遊び半分、ゲーム感覚で告白しようとしてやがる。

 俺だけじゃなく睦月まで馬鹿にしてやがるこいつらは…俺のアンチじゃないとはいえ許してはいけない…。


俺が険を帯びた顔をしていることに気づいたモブカスどもが、何だよと負けじと剣呑な空気を醸し出す。


 「人をそうやって貶める発言しているお前らは男として信頼されねークズだ。

 そんなお前らを、睦月は絶対受け入れない。

 つーか彼氏の俺がいるから告白も許さねーよ」

 「はぁ?雑魚そうなお前にクズとか言われたくねーし」

 「男としての信頼?付き合うのにそんなのが関係あるのかよ、意味不明だし」

 「ぼっちの陰キャ君が、デカい口叩かないでもらえますぅ?」


 俺の言葉に3人とも全くまともに取り合う気はなく、ただ単に俺を下に見て侮辱する。

 体育会系の体格をしたモブカス1が席を立って俺を睨みつける。脅しているつもりらしい。微塵の脅威も感じないが。


 「おいおい、こいつ白木の凄みにビビってるんじゃねーの?w」


 黙っている俺を怯んでると勘違いしてさらに俺を煽ってみせる。それを見たクラスメイトらもまた笑い出す。

 他のクラスメイトらもウザいが今はこのクズ3匹だな…。


 殺そ。


 

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