第31話
視聴覚室に入ると、集まっていた演劇部部員の視線が一気に集まる。
「あなたは!?」
ボクたちの元に
「知っての通り、演劇部はちょっと大変な時期でね。ナーバスになってる人もいるから面倒事は遠慮したいんだ」
そう言ってボクの肩に手をかける。
その手をとって
「きれいな手ね、爪まで。磨いてるのかしら?」
「ありがとう。俳優だからね」
理蘭と神藤がそんなやりとりをしていると、奥の方で
「やっぱり!
「登美姫ではないですわ。やっぱりってどういう意味ですの? 猜疑心に囚われ、信じる心を失った獣にまで堕ちたようですわ」
「信じる? みんなが舞台でいいものを作ろうと目標にしてれば、そういうものはあとからついてくるの。仲良く楽しくなんて言ってるから、良いものができなかったんじゃない。いい加減そのふざけたキャラ作りやめなさいよ」
「キャラなんて作ってないですわ。登美姫の内なるパトスが自然にこうさせるだけですわ。そっちこそ、他人に押し付けるほどの理想をお持ちですの?」
「あたしだっていっぱいいっぱいなのよ!」
「余裕がないのは、自分自身のせいですわ。自分の器の小ささを、他人にぶつけないで!」
和門は顔を真赤にして手を振り上げた。
止めに入った神藤の顔面に手が当たり、彼は大げさに吹っ飛んだ。
「灰色の花藤先輩、怪我はありませんの?」
「いたぁ~」
床に座り込んだ神藤を和門は世界一まずいものを食べたような表情で見下ろす。
「今よ」
理蘭がボクに耳打ちをする。
「なにが?」
「何しに来たと思ってるの? マイティ・ジャンプの名乗りを上げなさい」
「は? でも……」
「こんな格好をさせといて躊躇しないでちょうだい。怪人蜘蛛男が出たのよ」
その言葉にボクは周りを見回す。
ひょっとして、この中の誰かが?
状況は判別できない。
ボクには誰が蜘蛛男なのかもわからない。
だけど、この場の混乱を制圧できるのは規格外の力。
そう、ヒーローしかいない。
理蘭の言葉を信じよう。
「そこまでだ!」
ボクはそう声を上げて演劇部の諍いを止める。
白いマントを翻す。
身体にフィットしたラバースーツは赤。
脇から腿にかけてオレンジのラインが走る。
太い銀のベルトの中央にはMJの刻印がされた大きなバックル。
口だけ出したマスクは目の周りが大きく縁どりされ、肉食獣を想像させるデザインだ。
「正義の魂受け継いで、握る拳に心を宿す、運命が呼んだヴィジランテ。マイティ・ジャンプ!」
教壇の上で、ずっと練習していた名乗りのポーズを決めた。
「正義の理、華麗に避けて、絡まる糸を解きほぐす、自由が呼んだスーパーヒロイン。マイッチング・ステップ!」
ボクとは色違いのニットで編まれたスーツを来た理蘭が名乗りを上げる。
「なんなのですか? あなた達は一体?」
その舞座の質問には、視聴覚室のドアの影から答えが帰ってきた。
「知らねぇのか? こいつらがあの有名なマイティ・ジャンプだ!」
バランスの欠いた歩き方のまま
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