第41話
フローラルキティン・ルージュ、ブランは身体についたゴムを意に介さなくなっていた。
一度もゴムを炸裂させることなく、二人は離れることもなく、しかし的確に攻撃と防御を繰り広げる。
ルージュの回転を生かしたダイナミックなドリル・フリル・トゥシューズ。
ブランの隙を突くような的確なジェット・ガジェット・ラケット。
片方がよろければ、片方がバランスを取る。
対するビンビントリッキィも、ただやられているわけではなかった。
爆発、閃光、爆煙、フェイクの球や煙球をつかった心理的な攻撃により、二人の攻撃を捌くどころか、圧倒するような動きを見せていた。
煙に身を包まれたかと思うと背後に現れ、次は背後に現れたかと思うと煙の中から攻撃する。
攻撃を避け、さらに攻撃をしながら、次の次の次あたりの布石を打つように仕掛けを置いていく。
強く、あまりにも多彩な動き、それでもそこに食らいついていくフローラルキティンの二人の姿は美しかった。
「いいのかい? チミたちの大事な仲間はもう死んでるかもしれないんだぞ」
「心配無用よ。なんたって彼は、このフローラルキティン・ルージュの旦那になる男だからね」
「そうです。このフローラルキティン・ブランの夫になる人ですから! そうなのですから!」
ビンビントリッキィは呼吸が乱れているせいか軋んだぜんまい仕掛けのような笑い声を上げる。
「そうか。だったらかわいそうだな。アイツが地獄で寂しくないように、チミたちも送ってやらないとな」
「ふふははは。悪ぶるのもいい加減にしなさい!」
ブランがジェット・ガジェット・ラケットをビンビントリッキィに突きつけて背筋を伸ばす。
「はぇ?」
「あなたはそうやって粗雑なふりをしてるけど、本当は優しい人なんです。わかるんです! あなたも同じスーパーヒーローに憧れて生きてきた人だって」
「何言ってるんだ、ガキが。大人の人生を勝手に語るんじゃねぇよ」
「あなたは先代のフローラルキティンが事故にあった時、誰よりも悲しんでた。観客を襲う振りして戦闘区域から追い出してた、そしてコンビ仲が悪くて苦しんでた私たちに、試練を与えてくれた。あなたもまたヒーローです! そうなのです!」
「何を言ってるんだチミは?」
「そういうことだったのね! なんかわかっちゃったわ」
ルージュが勝ち誇ったように笑う。
「バカバカしい。一体何がわかったと言うんだ」
「あんたがどんなやつかなんてアタシは知ったこっちゃないわ。でも、恋する気持ちには敏感なのよ」
「愛だ恋だと、おままごとを戦いに持ち込むんじゃねぇ!」
「あんた、フローラルキティンが好きだったんでしょ」
「誰がチミたちみたいな青臭いガキなど」
「アタシたちじゃなくて。先代の。アンタとずっと戦ってたフローラルキティンよ」
「ハァッ!? 何を言ってるんの? ハァ? 勝手に、なに? は? バカじゃない。それはアレだ。バカか。何をバカなこと。全く意味がわからん。はあ?」
ビンビントリッキィは、目と口をいっぱいに開き、首を大げさにかしげて挙動不審な答え方をする。
「別に答えなくていいわ。でも、あんたなかなか趣味がいいじゃない」
「うるさい」
ビンビントリッキィは、力を貯めこむように身体を屈伸させる。
「くだらない事を言ってるんじゃない。それとこれとは……」
「話は別ね。そう、たとえあんたがどんな思いを持ってようと、どんな人だろうと、アタシたちは全力で戦うわ」
「あなたも、私たちも、スーパーヒーローだから! そうなのですから!」
フローラルキティン・ルージュとブランの二人は同時に飛び上がり、腕を組み合わせ空から舞い降りるようにビンビントリッキィに迫った。
バクヒロはいままでたくさんのスーパーヒーローを見てきた。
たくさんのスーパーヒーローに憧れてきた。
だけど、この二人が一番のバクヒロの胸を熱くしてくれる。
「いけぇー!」
バクヒロは叫ぶ。
「フローラルキティン・アルティメット・情熱・ダブル・ニントモ・キックだぞぃ!」
「どさくさに紛れて自分の名前挟むなよ」
ニントモが勝手に命名をした技が炸裂し、ビンビントリッキィが倒れると共に周囲の爆発物が散発的に破裂した。
戦いは終わった。
万雷の拍手の中、新生フローラルキティンは勝ち名乗りを上げ、周囲に笑顔を振りまいた。
ビンビントリッキィが操作をするとフローラルキティンの二人についていたバインド・ボンド・バンドは吸着力を失い地面に落ちた。
そしてバクヒロとニントモをつなげていたものも。
「今回は俺様の負けだ。しかし、再びチミたちの前に立ちはだかることになるだろう、それまでせいぜい仲良くやっておくんだな」
「いつなんどき、誰の挑戦でも受けて立つわ」
「今度はもっと、盛り上がる戦いをしましょう。ふふふふふ」
ショーの収録が終われば、戦う必要はなくなる。
自分たちよりももっと大きな権力にコントロールされたこの戦いでは、個人的な感情でやりあう必要もない。
それがいいのか悪いのかはわからないけど、今この世界にスーパーヒーローがいるという事実の前には、そんなことは気にならなくなる。
去ろうとしたビンビントリッキィは、足を止めて振り返った。
「だが、最後にチミたちに言っておかなくてはならないことがある」
ルージュとブランは、警戒し体勢を低くして構えた。
「なによ?」
ルージュが睨みつけて尋ねると、ビンビントリッキィは全身を使った大げさなアクションで言った。
「ギャフン!」
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