汚れを勲章だと言えたなら、君はよくやっている。

-N-

汚れを勲章だと言えたなら、君はよくやっている。




 僕がパソコン用キーボードに触る時間は一日平均五時間前後。

 もちろん常に打ち続けているわけではない。打つ文字を考えながらホームポジションに置いている時もあるし、パソコンゲームをするために動かしている時もある。だから純粋な、打っている時間というのはその半分に満たない。

 僕のキーボードは手垢で汚れる。白のキーボードだから、余計に汚れが目立つ。

 時々メンテナンスも兼ねて洗うのだが、汚れてしまうものは致し方ない。


 僕のホームポジションは独特だ。

 シューターゲームに長い事触っていた事もあって、薬指中指そして人差し指がそれぞれAWDの位置につく。WASDで上下左右に移動するシューターゲームプレイヤーなじみの配置。だからタイピングも独特だし、汚れが目立つのもその周辺だ。


 僕は手先が短い。自分よりも数十センチ小柄な母と同じ位で、病院の先生には「身長にしては短い」と言われたほどだ。左コントロールキーも打つ事が出来ない。だからキー配置も独特。「Caps Lockキー」にCtrlキーを設定してあるこのキーボードは、小指を少し伸ばしただけでコピーアンドペーストをやってくれる。


 このキーボードの事、僕は好きだ。イライラして叩きつけるようなタイピングにも耐えるし、力無く泣いた夜の弱々しい打鍵にも正確な表現を逃さない。いつも静かに、次の一文字を待ってくれている。耳を傾けてくれる。

 親友にも、彼氏や彼女にも、家族にだって出来やしない。


 今日も汚れるキーボードの汚れを勲章だと言えたのなら。

 紛れもなく、君は僕一番の戦友だ。

 誇りに思うよ。



――汚れを勲章だと言えたなら、君はよくやっている。――

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