僕らと黄昏クジラ

Nakime

##1 入道雲の下、伸びた影、クジラたち

コンビニの帰りにクジラたちを見た。

日差しは柔らかく、風は爽やかだった。

アイスコーヒーを片手に、空を仰いだ。


クジラたちは伸びる入道雲に遅れを取るまいと、ついていく。

1頭、また1頭と。

夏はそれを横目に僕の隣に立っていた。


何も変わらないいい夏だ。と僕が彼に話しかける。

クジラたちは嬉々として雲を追いかける。

風もいい具合だろう。夏が僕にそう返す。


僕らはお互いを視界に捉えなかった。

夏はいつの間にか僕の隣にいたし、僕も無意識のうちに夏の隣に立っていた。

アイスコーヒーの解けた水滴が、

ミルフィーユみたいに熱を重ねたアスファルトに落ちていった。


日差しが少し強くなった。

また来年も見れるといいな。僕はまた話しかける。

夏が、静かに頷くのを確かに感じた。

それっきり。


入道雲は左から右へ、ゆっくりと流れていく。

その後を、クジラたち星々の舟の間を抜けて追いかける。

行き交う人たちは空を見ず、立ち止まる僕は夏を知る。

俯瞰した夏はどこへ行く。


静かにクジラたちが通り過ぎるのを見送った。

入道雲はまだそこに佇んでいる。

あとには、影が伸びる感触とセミの声が響いていた。

僕は確かに夏に息をしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る