第59話 悲しい意見の相違

「ほほう。この私に剣で勝とうというのか。たかがレベル四百二十三風情が」


「なっ! オレのレベルがわかるだと? まさか、特殊なスキル持ちか?」


「だとしたら?」


「だとしてもだ。お前らを倒し、この男性を助け、移動都市を奪うのみ」


「砂賊のくせに、そんな正義感ぶって。実は、私たちのようなドブスに忌避感を覚えないタロウさんに興味を持ちましたね?」


「……まずは、剣女! お前からだ!」


「ああっ! 誤魔化しましたね! タロウさんはあげませんよ! 今日は私が、タロウさんと一緒に寝るんですから!」





 私の気のせいかな?

 いつの間にか、移動都市よりも私の奪い合いになっていませんか?

 特にアイシャという女性。

 自分を避けない男性だからとか、どれだけ男性選びのハードルが低いのだろう。


「少しばかり人を従えた程度でイキっている砂賊風情が。タロウ殿と知り合うまで、砂獣退治と、その過程でレベルの数字が上がるくらいしか楽しみがなかった私に勝てるかな?」


 聞いているとこっちが涙が出そうになる、自己紹介っぽい発言をしてから、ララベルも剣を抜いて身構えた。


「ララベル様、そいつは譲りますよ。他の連中は、一歩でも動いたら巨大な氷弾で船ごと叩きつぶします。伊達にララベル様と一緒にレベル上げばかりしてきたわけではないですからね」


 ミュウも……。

 聞いていて悲しくなるから、それはもう言わないでいいから。


「なるほど。オレは、そこの金髪ドブスを倒せばいいわけだな。最大戦力であるお前さえ倒してしまえば、あとは雑魚。捕らわれた男性を救出し、この移動都市を手に入れ、オレたちは安住の地を得る」


 すでに私は、捕らわれの姫みたいな扱いになっているという……。

 アイシャという女性の勘違いが甚だしい。


「私は、自ら望んでララベルとミュウを妻にしているわけで。あなたの大きな勘違いですよ」


「なるほど。そう言わねば、あとでそのドブスたちに折檻されるのだな。オレがあなたを救出してみせよう」


 駄目だ!

 いくら説明しても聞く耳持たないじゃないか!

 というか、なぜ彼女がここまで拗らせているのだ?


「悲しい行き違いゴリ」


「それはお前のせいだろうが!」


 ゴリマッチョ!

 いい加減に自重しないと、今すぐこの移動都市を放棄して逃げるぞ。


「たかがレベル四百超え風情は、頭の出来も残念なようだな。これ以上いくら私とミュウとタロウ殿のラブラブぶりを説明しても、拗らせた処女にはわかるまい。なにしろ、そういう経験がないのだからな」


「ララベル、変に挑発すると危険なのでは?」


「あのアイシャとかいう女砂賊はともかく、他の戦力が多すぎます。ここは彼女をわざと怒らせてから引き寄せて分断し、ララベル様に撃破させた方が勝率が上がりますよ。私は魔法を放つと脅して、他の砂賊たちをけん制すればいいのです。話によれば、砂賊の女性たちの多くは妊娠中で戦力になりません。リーダーの単独撃破が最善手です」


 さすがというか、ミュウは冷静だな。

 ララベルの参謀役を長年務めていたのは伊達ではない。


「言ってくれたな! ドブス!」


「人のことが言えるのか? 私に負けないドブスが!」


 私からすると、金髪美女と海賊ルックの美少女が互いにドブスだと言い争う光景はかなりシュールであった。


「なればこそだ! そこの男性が、お前のようなドブスを妻にするなどあり得ない! きっと無理やり拘束しているのだ! オレが助けてやる!」


「自分の都合のいいようにしか解釈できないとはな。第一、もしお前が私たちからタロウ殿を救出したとして、どうして私たちと同レベルのドブスであるお前に、タロウ殿が惚れるというのだ? 拉致されていたのを助けたから? そんな物語のような話はまずあり得ん! 『うわぁ、酷いブスに助けられてしまったな。一応お礼を言って、早く逃げ出さないと』となるに決まっているではないか!」


「ララベル様の仰るとおりです! お礼すら言わず、こそこそ逃げてしまうかもしれません」


「美人にはちょっとしたことでも丁重にお礼を言い、私たちのようなドブスとは目すら合わさない。それが真理ではないですか!」


 みんな!

 涙で視界が悪くなるから、これ以上は言わないで!


「お前らがなにを言おうと、オレはその男性を助けるぞ! 彼は私を見ても顔を背けたり、『うわぁ、ひでえドブスに遭ってしまった! 今日はツイてねえな!』といった表情を浮かべない。素晴らしい人だからな」


 その程度のことで、私がえらく評価されている!


「ふんっ! お前ごときにタロウ殿の素晴らしさがわかったところで、私たちが彼をお前に渡すと思うか?」


「そうですよ! あれだけの仲間がいるんですから、その中で上手くやってください」


「私たちから、タロウ様を奪わないでください。船団には男性が沢山いるではないですか!」


「そうだ! タロウ殿は我ら三人のものだ!」


「部外者は帰ってください!」


 フラウ……。

 君はもう、成人したら私と結婚する気満々なんだね……。

 しかも、このタイミングで自分の気持ちを暴露して、ララベルとミュウになし崩し的に認めさせてしまうなんて……この子、策士だ!

 あと、移動都市の件は?

 別にいいんですけどね……。

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