第57話 砂賊出現
「ゴリマッチョ、また移動都市が大きくなっていないか?」
「ゴリは悲しいゴリ。長い年月が経っているとはいえ、こんなにも廃墟となっている移動都市が多いなんて。ゴリは彼らの無念を晴らすべく、彼らとの合体を目指すゴリ」
「別にいいけどね……害があるわけでもないし……」
砂漠エルフたちと別れてから一週間。
オールドタウン方面を避け、移動都市ゴリさんタウン(総人口四名)は、砂漠をあてどもなく進んでいく。
航行ルートは完全にゴリマッチョ任せなのだが、夜のうちに廃墟となっている移動都市と合体しながら巨大化を続けていた。
それでなにか不都合があるわけもなく、ゴリマッチョは私たちに気を使っているようで、夜のうちに廃墟化した移動都市との合体というか、吸収を繰り返している。
朝起きる度に移動都市が大きくなっているが、すでに慣れた私たちは気にせず生活をしていた。
体が鈍るので、昼間は船で移動都市を出て砂獣を倒してイードルクを稼ぐ。
それで好きなものを『ネットショッピング』で購入し、夫婦でイチャイチャしたり、フラウに日本語を教えてあげたり、一緒にゲームなどをしながら遊んだりと。
ララベルとミュウは、フラウに料理を習ったりして、召喚前の毎日働きづめの生活とは違い、充実した日々を送っていた。
「オッサン、こちらを窺う怪しい小型船がいるゴリ」
「えっ? 私たちを? ああっ! ババ引いた!」
「タロウさん、迂闊ですよ」
「ゴリマッチョ、このタイミングで現れて声をかけるか? 普通」
みんなでババ抜きをして遊んでいたのだが、いきなりゴリマッチョが現れて声をかけるものだから、驚いてミュウの手札の中からババを引いてしまった。
「それは言いがかりゴリ。オッサンは、ゴリが声をかけなくてもババを引いていたゴリ」
「うむむ……正論を……」
電子妖精に、感情的な言いがかりをつけるだけ無駄か。
「例の砂賊の偵察隊とか?」
『アイシャ大船団』だったか。
多くの船を運用していると聞いたので、小型船の偵察部隊でこちらを窺っていても不思議ではない。
「その可能性が高いゴリ。どうするゴリ?」
「それは私たちが聞きたいくらいだ。ゴリマッチョよ。このゴリさんタウンの防衛力はどうなっているのだ?」
さすがは元王女というべきか、ララベルは冷静に砂賊相手に防衛戦をして勝てるのかどうか、ゴリマッチョに対して質問していた。
ゴリマッチョは、移動都市の維持、管理に特化した電子妖精である。
移動都市自体を防衛できる手段があるのか、ちょっと怪しいところであったからだ。
「ゴリ自体に侵略者に対する防衛手段はないゴリ」
「だと思った。では、最悪この移動都市を放棄する必要があるな」
「そうですね。私たちは、タロウさんさえ守れば今の生活を維持できますので。ゴリさんは、新しい町長となる人と仲良くしてください」
「となると、いつでも退去できるようにしないと駄目ですね」
ララベルたちは砂賊の襲撃があるかもと聞いても特に動揺するでもなく、冷静にババ抜きを中止して荷物を纏め撤収の準備を開始した。
「ええっ! それは冷たいゴリ!」
「だって、大小合わせて数十隻の大砂賊ですよ。四人ではどうにもなりませんよ」
「多勢に無勢とはよく言ったものだな」
「砂賊は、このゴリさんタウンを無傷で手に入れたいはずです。私たちが抵抗しない方が、アイシャさんとかいう砂賊の長さんの印象もいいはずですよ。ゴリさんはこのまま移動都市を管理すればいいのだから、別に悪い話ではないですよ」
フラウはこのところの勉強の成果が出たのか、えらく冷静だな。
確かに、砂賊たちは新しい根拠地が欲しいからこそ、このゴリさんタウンを襲うのだから、私たちが戦わずに退去すれば、血が流れずに済むという寸法だ。
「今はいいゴリが、オッサン以外の人間では移動都市の長期稼働は難しいゴリ!」
水はともかく、完全常温核融合炉の触媒に使うレアメタル、レアアース類が手に入らないか。
「それにこの移動都市は、暫くオッサンが町長になるという前提で、廃墟となった他の移動都市と合体して巨大化したゴリ! 他の人には維持できないゴリ! 砂漠エルフでも無理ゴリよ!」
例のポイントでゴリさんタウンを見た砂漠エルフたちは、あの時すでに巨大化していたこの移動都市を見て驚き、羨ましがっていた。
だが、自分も移動都市を大きくしたい、もしくはゴリさんタウンが欲しいと言う砂漠エルフは一人もいなかった。
それは、移動都市を維持する手間とコストの問題があったからだ。
だから水の消費を大幅に抑え、生活環境を低コストで維持できるドームを展開可能なように、電子妖精の性能アップは依頼してきたが、移動都市の巨大化は望まなかった。
多分、砂漠エルフたちの技術力を以ってしても、完全常温核融合炉の触媒の素材を集めるのが難しいのだと思う。
移動都市が大きくなれば、その分必要な金属類が多くなるのだから。
「バナナも貰えなくなるゴリ」
「なくても電子妖精は死なないだろう?」
「水や有機スーパーコンピューターを維持する有機物の供給が止まれば廃墟ゴリ! あいつらでは、必要な物資を揃えられないゴリ」
「そうかな? 試してみたら案外イケルかもよ」
向こうは、安住の住処を求めて懸命だからな。
頑張って必要なものを揃えてくれるかもしれない。
「助けてゴリ! あいつらでは、この移動都市に必要なものを確保できないゴリ! オッサンだけが頼りゴリ」
ゴリマッチョから懸命に頼まれてしまうが、相手は最低でも数百人……いや、千人を超えるかもしれないな。
「実際のところ、あの砂賊、団長のアイシャ以外はそんなに強くないゴリ。ララベル様もそう思うゴリ?」
「それは見てみなければわからないが……」
ララベルは、相手のレベル数がわかるスキルを持っている。
実際に砂賊たちを見ればわかるが、彼らの船を姿を確認する前に逃げ出した方が安全とも言えるな。
「タロウ様、外を見てください! 沢山の船が見えますよ!」
「なんだと! しまった!」
ゴリマッチョの奴、私たちと砂賊たちを対峙させようと、お涙頂戴作戦で引き留め工作をしたようだな。
城の窓から外を見ると、大小数十隻の砂流船の船団が見えた。
その中でも先頭にいる大型の船の舳先に、もの凄くわかりやすい海賊ルックをした美少女の姿が確認できた。
レベルアップの影響か、遠くのものでもよく見えるな。
「ゴリマッチョ、お前なぁ……ええい! しゃあない!」
こうなれば、ハッタリで対峙して駄目そうなら逃げてしまえばいいと考えよう。
私たちは武装すると、砂賊たちと対峙するため、港へと大急ぎで向かうのであった。
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