第40話 新スキル『ゴミ箱』

「レベル三百になったら、『ゴミ箱』というスキルが出てきた」


「またスキルが出たのか。それは凄いな」


「スキルを三つ持つ人なんて、ほとんどいませんからね」


「さすがはタロウ様です」




 今日もダンジョンでスカルヤドカリ退治をしていたら、ついに私のレベルが三百を超えた。

 大分レベルアップのペースが早いが、これも私が『変革者』だからかもしれない。

 それでも、いまだにスカルヤドカリとの戦闘は許可されていないけど。

 戦闘に関しては、ララベル先生は非常に厳しいのだ。


「というか、我らパーティは、ぶっちゃけタロウ殿が死ぬと困るのだ」


「空中分解の危機ですからね」


「ゆえに、危険なことはできる限りさせたくないのが正直な心情だな」


 確かに私が死ぬと、『異次元倉庫』と『ネットショッピング』が使えなくなるし、貯めていたイードルクも消えるかもしれない。

 私は死ねないというわけか。


「私やミュウ、フラウが死んでも、タロウ殿が生きていればパーティは問題なく活動できる」


「そうですね。確かにタロウさんの直接の戦闘力は低いですけど、補給、後方支援能力は尋常ではありません。他に替えはありませんよ。私たちレベルの戦闘力を持つハンターは、他にいなくもないですからね」


「そうですね。タロウ様がいなくなったら、私はどうしていいのか……それなら、私が犠牲になります」


 いい年の大人の男性としては、自分ばかりが生き延びて妻たちや少女を犠牲にするのはどうかと思うのだが、私が死んでしまうと、生き残ったララベルたちが辛い生活を送る羽目になる。

 厳しい選択だな。


「なにより! ラーメン! 海の幸!」


「各地のお取り寄せスイーツ! アイス!」


「フルーツ美味しいです! 本も面白いし、カレールーが手に入らないのは辛いです!」


「「「よって、前に出ないでください!」」」


「はい……」


 人間とは、一度手に入れた美味しい、便利な生活を忘れられないらしい。

 戦闘で前に出るなと、最近急激なレベルアップと弓の腕前が上達したフラウからも釘を刺されてしまうのであった。




「して、『ゴミ箱』か……」


「そのまんま、ゴミを捨てられるスキルだと思いますけど……」


「そういえば、『ネットショッピング』で購入した品って、便利だし、美味しいし、面白いですけど、ゴミは大量に出ますよね」




 主に家事担当であるフラウの言うとおりで、現代文明の産物はゴミが多く出る。

 これまでに出た大量のゴミは、『異次元倉庫』に仕舞っていたのだが、これを捨てられるという解釈でいいのか?

 そう思った瞬間、脳裏にゴミ箱の機能が浮かんできた。


「ゴミ箱は、ゴミを捨てられる。基本的に無料で捨てられるが、中にはわずかながらお金になる品もある。リサイクル品とかはってことかな?」


 紙資源とか、金属資源はリサイクル可能で少しお金になるという判断かな?


「なお、『異次元倉庫』とリンクも可能ですか……」


 試しに使ってみると、『異次元倉庫』のゴミをゴミ箱に捨てると命じたら、リストからゴミが消えてしまった。


「便利だな」


 『異次元倉庫』の空も増えたので、これは便利な機能だな。

 そして、所持金も352イードルク増えていた。

 まあ、処分費用を取られたり、無料よりはマシだと考えよう。


「もう一つ、機能があるのか……この世界のゴミも捨てられますか……」


 とは言っても、この世界でゴミなんてそんなに出ないというか……。

 わずかな生ゴミと、金にならない砂獣の残骸くらいかな?

 でも私の場合、砂獣を倒すとすべて消えて換金されてしまうからなぁ……。


「ゴミ捨てに便利なのかな?」


 でも別に、この世界でゴミ捨てに困るってこともない。

 各自治体によってゴミ出しの厳しいルールがあったり、細かい分別があるわけでもない。

 生ゴミを放置すると砂獣が寄ってくることがあるので、専門の業者が集めて肥料にするからだ。

 ハンター協会から、使わない砂獣の残骸を集めるのもここだ。

 場所によっては、囚人の仕事だったりする。

 再利用できる金属類などは、鍛冶屋などに安く売られたりとか。

 極論すると、ゴミは砂漠に捨ててしまえば砂獣が勝手に処分してしまうので、この世界の人たちに環境保全の精神とかはないというわけだ。


「ゴミでもお金になるのかな?」


 『ネットショッピング』の主催者が、ゴミの中で使える資源を買い取っていると見ていいのだろう。

これまで溜めていたゴミもお金になったのだから。


「ちょっと試してみるか」


 人目を避けるようにオールドタウンの外に出た私たちは、そこで試しに砂漠の砂を『ゴミ箱』に捨ててみることにした。

 とはいっても、頭の中で『この辺の砂を捨てる』と命じるだけだ。

 すると、本当に指定されたエリアの砂が消えて大穴だけが残された。


「タロウ殿、どうだ?」


「十イードルク増えた」


「安いですね。まあ、砂ですからね……」


「砂って、お金になるんですね」


 この世界の住民からすれば、砂なんていくらでもあるどころか邪魔でしかなく、まさかお金になるなんて認識はないんだろうなと思う。

 私もこの世界に来てから、毎日ウンザリするほど砂漠の砂を見ているので、これを『ゴミ箱』に捨てたらお金になるとは思わなかった。


「コンクリートの材料にでもするのかな?」


「コンクリートですか? それってどんなものですか?」


 この世界にはコンクリートが存在しなかったので、ミュウがどんなものなのか聞いてきた。


「建物の建設や、道路工事に使うものさ」


「自由な形に固まるなんて便利ですね」


「この世界ではないのか」


「はい。建物は石材を積むのが主流ですね。接着剤として砂獣の粘液などが用いられますけど」


「強度は大丈夫なのか?」


「大地震がくれば壊れますけど、そんな数百年に一度あるかないかのことに備える人は少ないですよ」


 グレートデザートでは滅多に地震が来ないようで、石材と接着剤の建物が主流らしい。

 耐震とかは考えないんだろうな。


「タロウ様、でも砂をゴミ箱に入れるよりも、ダンジョンで砂獣を倒した方が効率いいですね」


「そこだよね」


 不要なゴミで、『異次元倉庫』のスペースが取られないだけマシなのかな。

 現時点で収納できる量は、大凡大型倉庫三個分。

 レベル百を超える度に、大型倉庫一個分容量が増えている計算だ。

 かなりの収容量だが、ゴミにスペースを使うのは勿体ないな。


「新しいスキルを確認できたので、あとは今日も砂獣を狩ろう」


「そうだな。タロウ殿はもしかしたら、レベル百ごとになにか新しいスキルを覚えるのかもしれない。ならば、試しにレベルを上げてみるのもいい」


「法則的に考えるとあり得ますね。そちらも頑張るとして、砂獣を倒せば色々と美味しいものや楽しいものが買えますから」


「頑張れば、頑張った分だけ報われるんですね。タロウ様、今日の夕食ですけど、すき焼きにしようかなって思います。〆はいかがなさいますか?」


「うどんがいいかな」


「わかりました。早くダンジョンに行きましょう」


 新しく覚えた微妙なスキルの確認も終わったので、私たちは砂獣討伐のため、ダンジョンへと向かうのであった。


 そして、今は微妙な評価を受けることとなったスキル『ゴミ箱』であったが、これが後に大いに役に立つとは……。

 現時点では、誰も想像していなかったのであった。

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