第22話 ハチミツと砂糖

「ついにやりましたね、タロウさん」


「うむ、頑張った甲斐があったものだ」


「本当に、一ヵ月以内で10億イードルク貯まりましたね」




 『ネットショッピング』の永遠に送料無料を手に入れるため、私たちはいつもよりも討伐にかかりきりとなり、二十三日目に見事目標額に達成した。

 私もサンドスコーピオンデビューしてみたのだけど、残念ながら戦闘にはそれほど向いていないようだ。

 一日に五匹倒すのが限界で、私はララベルさんとミュウさんの後方支援担当となった。

 後方支援といっても、討伐を続ける二人に飲み物や食事を出したりする程度なのだけど。


 ハンターの中で、単独でサンドスコーピオンを倒せる者はとても少ないそうなので、私もそこまでハンターとして弱いということもないそうだが、まるで時代劇の主人公のようにサンドスコーピオンをバッサバッサと斬り倒すララベルさんと、魔法駆使してサンドスコーピオンを群れごと虐殺しているミュウさんを見ると、私はとても弱いのではないかと思ってしまうのだ。


 二人が強すぎるのであろう。

 レベルを教えてくれたけど、二人ともレベル五百超えは凄いと思う。

 二人とも、レベルアップ速度と成長率が段違いなのだそうだ。


 どうして王様は二人を……自分の権力を脅かす危険性を考えたのか?

 肉親でも疑わないといけないとは、王様になんてなるものじゃないな。


 とにかく、無事に10億イードルク貯まったので送料無料をクリックしたら『以後、送料は無料になりました』という表示が出た。

 これからは、実質定価の半額で全商品を購入できるわけだ。


 ただし……。


「ララベル様! 残高が230イードルクしかないですよ」


「これでは送料無料でも、なにも買えないではないか」


「買えなくもないですけどね……」


 今はちょうど休憩の時間。

 周囲のサンドスコーピオンたちが二人に駆逐されたため、砂獣に襲われる心配はないのでノンビリとしていた。

 他のハンターだと、周辺の砂獣をすべて駆逐するなんてまずあり得ないので、この二人の強さがわかるというものだ。


『どうせ王城にいても、他の王族や貴族の子女からドブスとバカにされるだけなのでな。ならば、砂獣を倒してレベルを上げていた方がマシだ』


『他にすることがないんですよね』


 二人の才能は生まれつきとして、レベルが高いのは砂獣でも倒していた方が暇も潰れるし、自分たちをバカにする嫌な連中と顔を合わせないで済むからだったとは……。

 世界は変われど、そういう嫌な奴というのはいるものなのだな。


「そうだ、これをどうぞ」


 私は、急ぎ『ネットショッピング』で有名な氷菓子のラムネ味を購入した。

 一本70イードルクで、消費税はかからないのがいい。

 三本分クリックすると、無事送料無料で三本出てきた。


「暑い時は氷菓子が一番ですよ」


「氷ですか? 私は氷の味にうるさいですよ」


「ミュウ、お前の氷は味がないではないか」


「ううっ、ララベル様。そこを突きますか?」


 ミュウさんは魔法で氷を出せるので、二人だけの時はよく氷を口に入れて水分補給と涼を取っていたそうだ。

 ただ、魔法の氷に味はつけられない。

 だたの氷なので、ララベルさんは氷菓子と比べるなとツッコミを入れたわけだ。


「この味は初めてだが、甘いにのさっぱりしていていいな」


「氷に味がついていると美味しいですね。削り氷を思い出しますよ」


「削り氷ですか? 削った氷に甘いものをかけるとか?」


「高級品には違いないですけど、チョコレートとかよりは圧倒的に安いので」


 ミュウさんによると、削り氷とは魔法で作った氷を細かく削って、その上に、ハチミツ、砂糖、ジャム、搾ったり摺り下ろした果物を載せて食べるお菓子だそうだ。

 かき氷と思っていいだろう。

 これも高級品で、なぜなら氷は魔法で作るしかなく、なるべく魔法使いは砂獣退治に行けというのが国の方針なので、氷の生産量が少ないからだそうだ。


「一番高級なのは、ハチミツをかけたものですね。とにかくハチミツは、『黄金の蜜』と呼ばれていて、とても高いので」


「採取量が少ないのですか?」


「ミツバチの巣自体がなかなか見つからないのですよ。当然砂漠に生息していないので」


 ハチミツの原料が花の蜜である以上、砂漠にミツバチがいるわけないか。

 希少な花が咲く場所で巣を探すそうで、この世界でハチミツはとても高価な品だそうだ。


「小さなスプーン一杯で、10万ドルクくらいしますよ」


 かき氷で使うと、見事一杯数十万ドルクのかき氷の完成というわけか。


「砂糖も、バート王国では生産していないので高価です。果物を摺り下ろしたものをかけるのが主流ですね」


「そんなに甘くないけどな。ハチミツや砂糖ほど高価ではないが、やはりいい値段だ」


 養蜂はやっていない。

 砂糖は輸入。

 果物も、品種改良をしていない原種に近いものなのでそれほど甘くはなく、そのうえ栽培量も少ないので高価というわけだ。

 この砂漠だらけの世界で、自生している果物にあまり期待しない方がいいか。


「そういえば、ハチミツも、砂糖も、果物も買えるんですよね?」


「はい」


 私は、『ネットショッピング』の画面を操作して、まずはハチミツの商品リストを出した。

 

「ピンキリだなぁ……」


 とはいえ、さすがにスプーン一杯10万ドルクということはなかった。

 

「ハチミツ2キロで、五千イードルクかぁ……こんなものかな?」


 『ネットショッピング』は、日本のネットショッピングに準じていると思う。

 大瓶ハチミツ2キロで五千円なら妥当であろう。

 消費税と送料はないからな。

 10億イードルクを先に苦労して払っておいてよかった。


「これなら、ちょっと砂獣を倒せば買えますよ……ってどうかしましたか?」


「ハチミツが安いです! ちょっとあり得ない安さですよ!」


「そうだな。我がバート王国でその値段を言われたら、まず偽物を疑うな。砂獣の粘液に色をつけて売る輩がいるのだ」


「不味そう……」


「当然不味い。味なんてつけたらコストが上がるので、粘液特有の生臭い味しかしないそうだ。着色に使う塗料のせいで健康にもよくないしな。タロウ殿の世界に偽物のハチミツはないのか?」


「なくはないですけど、今は少ないかな?」


 日本というか地球では養蜂技術が進んでいるので、一部高級品は除くがハチミツが買えない人は少ないと思う。

 

「砂糖はどうですか?」


「ええと……」


 ミュウさんに促され、私は砂糖も検索してみた。


「業務用で30キロ入りですけど、上白糖が8000イードルクくらいですね」


「砂糖も安いですね。安すぎます」


「バート王国で砂糖がその値段だと言われたら、偽物で砂だったという結末になるだろうな。あと、上白糖ということは白いのか?」


「ええ。上白糖は白い砂糖ですね」


「白い砂糖はこの世界にもあるが、ハチミツ並みに高いぞ。輸入品なのもあるが、製造している国が技術を秘匿しているのでな」


 砂糖は無精製品が主流で、漂白技術は生産国が秘匿しているのか。


「王族や大貴族は、上白糖を使ってこそみたいな風潮だったりして」


「よくわかるな。タロウ殿は」


 まあ、そんな予感はしたけどね。


「もう一つ、砂糖とハチミツは美しい女性になるための必須アイテムなのだ」


 この世界の女性は、太っている方が美しいと評価されると。

 この世界の食料事情だと平民の女性では難しい条件で、王族や貴族の女性はせっせとハチミツや砂糖を食べて太るわけか。

 

「私とミュウは、『お前が太っても化け物だという事実に違いはない』と言われ、実は黒い砂糖しか口に入れたことはないがな」


「あっ、私もです」


 なんかもう、聞いてて悲しくなってきたな。


「タロウさん、ハチミツと砂糖がほしいです」


「私もだ。特にハチミツが一度食べてみたいな」


「稼いでいるのは二人なので、遠慮しないでどうぞ」


 私は、ハチミツと砂糖の購入許可を出した。

 甘い物で喜ぶ女性ってのは、可愛らしくていいものだ。


「ただ、この氷菓子を購入したので、残高20イードルクです。なにも買えません」


 あっ、もうかしたら○○○棒は買えるかな? 

 あとで確認してみよう。


「ぬぉーーー! 休憩が終わったら、サンドスコーピオン退治を続行するぞ」


「ララベル様、沢山倒しましょうね」


 ハチミツと砂糖のため、がぜんやる気を出した二人は、夕方まで大量のサンドスコーピオン虐殺……退治して大金を得たのであった。


 さすがに私も少し引いた。

 程度の差はあれ、女性は甘い物が好きなのだと思う。

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