第69話 vs太陽神マアトマ2世⑥ ~太陽争奪リレー~
神マアトマ2世。
神秘法院が有するデータブック『
最新三十年の遭遇数は世界統計で十一回、勝率は二勝九敗(十八パーセント)。これは神々の遊びにおける人間側の勝率としては極めて高い。
ただし――
勝てた二回は、いずれも使徒が五十人以上の大パーティーを組んだ時のみ。
過去の記録をどれだけ遡っても、「二十人以下」で挑んでこの神に勝てた事例は見当たらない。
『
太陽の軍神マアトマ2世。
無数の兵士を率いる特性から、『MMT』=Massively(大規模) Multiplayer(多人数型)Tactics(戦術系)を好む。
「――って、わかってたはずじゃない、私のバカ!」
灼熱の砂を駆ける十五人。
その先頭を走るのは、チーム『
走るたびにズレそうになる眼鏡を手で押さえながら。
「神さまと配下三体。こっちはレオレーシェ様含めて十五人だから楽勝って思ってたのに、私としたことがとんだ計算違いだわ!」
と。
褐色の少女ケルリッチが、その後ろから追いついてきて――
「データ系キャラのあなたがデータ解析を怠るのは、
「うっさいわよ!?」
「あともう一つ。花を手に抱えておくのは推奨しません。服の中にしまうべきです」
「本当におせっかいね!?……ま、まあそれは確かだけど」
「ではお先に」
まるでスキップするように。
足場の悪い砂上を、飛び跳ねるがごとく優雅に走っていくケルリッチ。
「わっ! ケルリッチさん速すぎです!?」
「……自分で自信あるって言うだけあるなぁ」
超人型は、肉体能力に恩恵を受ける。
ただし程度は千差万別。フェイが常人とほぼ変わらない一方で、ケルリッチはまさしく超人と呼ぶに相応しい肉体だ。
しかもまだ神呪を発動していない。
「……頼りになるかもな。ってことはアレがこうなって、太陽の花が――」
「フェイさんどうしたんです?」
「計算してんだよ。ここからの展開が……」
パールにそう言いかけた、矢先。
砂漠が爆発した。
そう錯覚するほどの轟ッという地鳴りとともに、砂塵が空高くへと巻き上がった。
「き、来ましたです!?」
『にゃあ!』
『にゃあ!』
濛々と砂塵を巻き上げて、
ぬいぐるみのように愛くるしい見た目でも体長二メートル。体重は百キロ以上。それが千体以上も迫ってくる光景は、さながら砂の津波が迫ってくる重圧感。
しかも速い。
振り返る前には砂上にいた軍勢が、早くも砂丘を駆け下りている。
「下り坂を二百メートルとして、駆け下りたのを十二秒として時速六十キロ。これは余裕で追いつかれるな」
「真面目に敗北宣言しないでください!?」
「いや予想どおりだ」
砂漠での追いかけっこは神側に有利。
「ここまでは仕様だ。たとえば俺らが時速八十キロで逃げてきたら、
「やっぱり敗北宣言じゃないですかぁ!?」
「それをどうにかするゲー…………」
「先頭の人間!」
十五人の
元神さまの突然の呼びかけに、ケルリッチがビクッとその場で振り返る。
「避けなさい!」
「……えっ!?」
「ケルリッチ、後ろに跳べ!」
それに続くのはダークスの怒号だ。
どうして、と訊ねる間もなくケルリッチが砂を蹴る。
と同時。
神の軍勢の最後尾で、三角帽子をかぶった
『神罰にゃ!』
黒い風が渦巻いた。
周囲の砂を片っ端から吸いこむ黒の竜巻が、十五人の先頭を走るケルリッチの足下から噴き上がるように召喚された。
とてつもなく巨大な竜巻が。
「砂嵐っ!?」
ケルリッチが全力で跳びさがる。
あと一秒跳躍に迷いがあれば、竜巻に轢かれて脱落だったことだろう。
「な、何ですかあのサイクロン!? あんなの巻きこまれたら絶対助かりませんよ!?」
「あの猫ゴーレムたち、遠距離の魔法使いもいるのか」
まずは遠ざかること。
その安全策が安全策ではなかったのだ。
……先頭を走っていたのがケルリッチ。
……今の魔法は、神の追っ手から離れすぎた人間に対しての神罰か!
近づいたら捕まる。
かといって安全圏に逃げすぎたら、遠距離からの極大魔法という神罰が下る。
「あの砂嵐、たぶん人間には耐えられないわね」
空を衝く勢いの竜巻を見上げるレーシェ。
「
「絶対巻きこまれたくないですがっ!?」
壁のように立ち塞がる神の竜巻。
その風が吹きすさぶなか、後方から砂の兵士たちが飛びかかってきた。
『にゃあ!』
「っ!
「リーダー、追いつかれ………………ぐあっ!?」
チーム『
ぬいぐるみのような可愛い姿でも歴とした神の軍勢だ。その腕力に首を押さえられれば、超人型さえも容易に抜けだせない。
しかも――
この距離で魔法を放てば仲間に当たるため、魔法型の使徒は動けない。
「た、助けてくれ!」
「この……化け猫が!? カイザーを離せ!」
仲間を救出せんと、
……ぽすっ。
砂でできた
『にゃあ!』
「しまった!?」
砂のゴーレムの手には、使徒から奪った花の蕾。それがゆっくりと開いていって新雪のように白い花を咲かせた。
砂の花。
これを奪われてもゲームの勝敗に影響はない。
が、奪われた人間は脱落するルール。
「カイザー!?」
リーダーのカミィラが手を伸ばすが、遅かった。
男の使徒が光に包まれるや、陽炎が消えるかのように、瞬く間に消失。
一名脱落。
人間側残り十四名。
そのカミィラへ。
雪崩れ込むように
「このっ!?……調子に乗るんじゃないわよ!」
カミィラの指先に光が灯った。
青い輝き。それが弾けた瞬間、砂漠に吹いたのはブリザードを想わせる鋭い冷気だ。
「
氷の弾丸が、飛びかかってきた
全身が瞬く間に凍りついて青い氷像へ。いかに砂の身体とはいえ全身を氷漬けにされては動きようがあるまい。
「ど、どんなものよ!」
『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』『にゃあ』
「って多すぎよ!?」
氷漬けの
凍らせるにも限度がある上、魔法型の使徒は魔法を撃つごとに一定の
「ダークス!」
カミィラが叫んだ先には、
「あんたボケッと見てないで動きなさいよ!」
「……なるほど」
ふっ、と鼻で笑うダークス。
マル=ラの筆頭使徒である男が、優雅な所作でコートをひるがえした。
「俺としてはフェイのプレイ観察に重きを置くところだが、チームの危機とあらば話は別。窮地の仲間に手を差し伸べるのもまた
「いいから早く!」
「ならば見よ、神とその軍勢たち!」
砂の壁のごとく押し寄せてくる
ダークスが、自らの右手を突き出した。
「これが俺の力だ!」
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