第67話 vs太陽神マアトマ2世④ ~太陽争奪リレー~




「太陽の花を持っているのは、俺だ」

「太陽の花を持っているのは、わたしよ」



◇ ◇ ◇


 

 神秘法院ルイン支部。


 そのビルの七階にある執務室で。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」


 事務長ミランダは、頭を抱えてソファーから飛び上がっていた。


 壁に取り付けられた大モニターに両手をついて、そこに映っている少年少女をまじまじと睨みつける。


「ちょ、ちょっとフェイ君!? レーシェ様!? それどういうこと!?」


 太陽の花を奪われたら即座に敗北。


 だからこそ十五人が協力し、神チームに奪われないよう、誰が太陽の花を持っているのかをカモフラージュするだろうと。


 そう思っていた矢先にだ。


「どうして自分から花のありかを自白しちゃうの!?」


 ミランダとて神秘法院の事務長だ。


 二人が何を狙っていることはわかる。どこまで正確に深追いできているかは自信がないが、この二人がやることには必ず裏があるはずなのだ。


 それはわかるのだが……


「いきなり本番でやるかなぁ普通」


 ソファーにどすんと座りこむ。


 膝を組んで、天を仰ぐように天井めがけて息を吐きだした。


「これは神さまも度肝を抜いてるだろうねぇ。だってこれ、フェイ君もレーシェ様も絶対、打ち合わせなしのアドリブでしょ?」




◇ ◇ ◇




 時同じくして――


 神秘法院マル=ラ支部。


 ビル地下一階、ウンディーネの巨神像が置かれたダイヴセンター内に、モニターを食い入るように見上げる者たちがいた。


「フェイ殿!? い、いったいどういうことだ!」


 砂漠に立つ少年を見上げて、ネルは思わずその名を呼んでいた。


 


 観客としてゲームを俯瞰しているはずなのに、この状況を整理しきれない。


「いや……自白もそうだが、そもそもなぜ二人なんだ!?」


 太陽の花は一本。

 だが「太陽の花を持っている」と自白した者が二人現れた。


「……どちらかは大嘘ということなのか?」



 可能性1:フェイが嘘をついている(太陽の花はレーシェ)

 可能性2:レーシェが嘘をついている(太陽の花はフェイ)


 

「おそらくは……フェイ殿とレーシェ様のどちらかが太陽の花を持っていて、どちらかが毒の花を持っている!」


 神側の勝利条件は、太陽の花を奪うこと。


 フェイかレーシェのどちらかの花を必ず奪わなくてはならず、その二択を外した場合、まず確実に毒の花を掴まされることになる。


 その駆け引きの舞台を作りだしたのだ。


「ネル」


 隣に立つバレッガ事務長が、訝しげに口を開いた。


「お前の推測が十中八九正しいだろう。が、可能性3はあると思うか?」

「…………」



 可能性3:二人とも嘘をついている。(太陽の花は、残る十三人の誰かが所持)


 

「……もちろんあるとは思います。が……」


 唇を噛みしめる。


 悔しいのではない。興奮で武者震いがとまらないからだ。あの二人はいったいどこまで観戦者じぶんたちたちの想像の上を行く!


「残る十三人の誰かが太陽の花を持っているとして、それでは毒の花を掴ませる駆け引きとしては弱いです」


 俺を(わたし)を狙えよ。


 その強制二択を持ちかけてこそ意味がある。 


 二人のどちらかが太陽の花を所持し、もう片方が毒の花を所持している。

 毒の花を掴んだ場合にほぼ負けが決まるというのを仮定にすれば――


 太陽か、毒か。

 勝率は50パーセント。(二分の一で毒を掴ませるため)。


 神々の遊びにおける人類側の勝率が10パーセント前後であることを踏まえれば、二人が仕掛けた駆け引きは相当に分が良いことになる。


 …………

 ……………………だが。


 


 何か、小さな違和感が自分ネルの胸に引っかかって離れない。  


 相手は神だ。

 これに近い二択を仕掛けてくる使徒とも、もう何度となく相まみえて来たことだろう。

 

 フェイもレーシェも、それは容易に想像できたはず。


 

 自分たちの想像を覆すような――


 さらにとてつもない何かをしてくれそうな、そんな予感めいた高揚が、全身を熱く駆けめぐっていく。


「……フェイ殿……見届けさせてもらう!」




 この時――


 全世界の観戦者、パールやケルリッチ、仲間であるチーム『大天使アークエンジェル』の面々さえも、フェイの計画の全容を理解した者はいなかった。


 さらにいえば見逃していた。


 巨大モニターの隅。

 フェイとレーシェが映っている、その奥で。




「……ふん。フェイよ、そういうことか」




 マル=ラ筆頭使徒ダークスが不敵な笑みを浮かべていたことに。


 たった一人――

 この男だけは世界に先駆けて「到達」していた。




 可能性1:フェイが嘘をついている(太陽の花はレーシェ)

 

 可能性2:レーシェが嘘をついている(太陽の花はフェイ)

 

 可能性3:二人とも嘘をついている(太陽の花は、残る十三人の誰かが所持)





 答えは――――







 答えは「」。


 存在しないはずの可能性4を目指してこそ、神に挑む頭脳戦だと。








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