第65話 vs太陽神マアトマ2世② ~太陽争奪リレー~


 整理しよう。


 「太陽はどこへ消えた?」ゲームには、三つの勝敗条件が存在する。



【勝利条件1】太陽の花をピラミッドの最上段に捧げること。

【勝利条件2】神チーム側の太陽の花を奪うこと


【敗北条件1】自チーム側の太陽の花を奪われること



 重要なのは、自チームの誰が太陽の花を持つかということ。



 地平線上のピラミッドまで、距離おそらく千メートル以上。

 神と、その兵士で被造獣ビーストたちが立ちはだかる。


「あの被造獣ビーストたちだけど――」


「猫ゴーレムですよフェイさん」

「……呼び名はどうでもいいんだけどな。じゃあ猫ゴーレムだけど」


 パールの拘りに折れて改名。

 だがパールの言うとおり、まさに猫ゴーレムの呼び名が似合う姿なのだ。


 デパートで売っている猫のぬいぐるみのような可愛い見た目。しかしフェイが見るかぎり、砂埃を巻き上げて走ってきた速度は相当なものだった。


 ……あの可愛らしい見た目のくせに、膂力も速度もとんでもないぞあいつら。

 ……走り続けたら俺やパールは必ず捕まる。


 この砂漠で、あの被造獣ビーストから逃げ続けるには身体能力がモノを言う。


 ならば太陽の花を持つ適任者は?


「最適解は明らかだよなぁ……」


 十四名の顔ぶれを流し見て、フェイは思わず苦笑した。


 全員が同じ方向を見ていたからだ。

 レーシェを。


 元神さまであるレーシェならば、あの被造獣ビーストに囲まれようとそうそう簡単に花を奪われることはあるまい。


「ねえフェイ」


 そのレーシェが、ケルリッチの持っている毒の花を指さした。


「わたしが太陽の花を持つのも良いけど、?」


「俺も思った。そっちもアリなんだよな」


 レーシェが太陽の花を持つ。


 それは敵チームも当然に予想してくるだろう。それを逆手にとってレーシェが毒の花を持たせておく戦法はかなり強力だ。


「仮にレーシェが毒の花を持つとして……太陽の花を誰が持つかだけど、このゲームなら超人型がいいと俺は思う。このなかで該当するのは?」


 何人かが手を挙げる。

 ちなみにダークスは手を挙げないから魔法士型なのだろう。


 と。そんなダークスの隣で手を挙げる少女が。


「え?」

「何ですかその表情。私が超人型なのは意外ですか?」


 なんとケルリッチ。


 超人型といえば何といっても圧倒的な肉体能力が特徴だ。物静かで控えめがちな彼女は、魔法士型に違いないという先入観があったが。


「……すごい意外だ」


「ちなみに私の神呪アライズは瞬発型の肉体強化です。あのピラミッドまで走るならこの十五人の中でも上位かと。僭越ながら、私に任せて頂くのは悪くない選択肢の一つです」


「わかった、じゃあ頼りにさせてもらう」


 レーシェが毒の花。

 ケルリッチが太陽の花。


 ……この組み合わせが一番確実性の高そうな戦術だよな。

 ……懸念は、


 一昨日の『Mind Arena』がその最たる例だ。


 最適解を求め続けたダークス・ケルリッチの戦術は、強力でありながら、フェイたちも対策が可能だった。


 ゆえにどうする?


 リスクの少ない最適解か。

 リスクを冒して、奇をてらうか。


「あ、そうだ。追加で質問だけどゲーム中に花を交換するのは?」


『花の交換は認められません。ルール1――ゲーム開始後に自分の花を手放してしまうと、そのプレイヤーは失格になります』


「じゃあ一方的な『譲渡』はどうだ?」

『譲渡というと』


「一人が二本以上の花を持つことだよ。たとえば、ピンチになったプレイヤーが花を投げ渡して別人に渡すのは?」


『可能です。ただしルール1により、花を手放したプレイヤーは失格になるのでご注意を』


 花の交換はできなくても一方的な譲渡は可能。

 理論上、レーシェに十五本の花をすべて預けるのも可能というわけだ。


 ……でもリスクが高すぎる。

 ……誰が太陽の花を持っているか一目でバレバレだもんな。


 花の譲渡は最終手段。 

 求められるのは、十五人による完全なチームワーク。


 ……無限竜ウロボロス巨神タイタンの時とはそれが違いだ。

 ……このゲームに単独行動は許されない。全員で太陽の花を死守しなきゃな。


 ダークスやケルリッチ。


 そしてカミィラ率いる『大天使アークエンジェル』が十人。その多くが初対面の使徒たちで、彼らと息を合わせることが求められる。


「誰か良いアイディアがあれば――」

「フェイ、お前が決めろ」


 腕組み姿のダークスが、瞳を閉じたまま厳かに告げてきた。


「繰り返すがこれは都市ツアー。お前たちと神の遊戯だ。太陽の花も毒の花も、誰が持つかお前が決めろ」


「ダークス! 今日どうしたの!?」


「何がだ」

「……だ、だって……いつものあなたじゃないわ!」


 ダークスを見上げるカミィラが、信じられないといった表情で。


「いつもなら『太陽の花を持つのは俺以外にありえん!』って言うじゃない」


「言わないが」


「言うでしょ!? と、とにかくどうしたのよ。あなたさては、一昨日負けたことが尾を引いてるわね。それで彼に対して遠慮してるんでしょ」


「はっ!」


 ダークスが噴きだした。


「この俺が? 冗談はよせカミィラ。そんな無様な姿を俺がさらすと思うか?」


「じゃ、じゃあ何なのよ今日は……」


「?」


「だが今はどうでもいい。俺は純粋に、我が唯一無二のライバルが、神を相手にどう立ち回るかに興味があるだけだ」


 昇格宣言。

 どうやら自分フェイは、ライバルから唯一無二のライバルに上がったらしい。


「……まあいいわ。ならフェイ、あなたに私たちの神呪アライズを教えておくから参考にして」


 カミィラが取りだしたのはICカードだ。


 チーム『大天使アークエンジェル』の使徒目録チームリスト。カミィラを含む十人の名前、神々の遊びの勝敗数、そして神呪の詳細が記録されている。


 神秘法院の端末デバイスでそれを読み取って――


「ありがとう、把握した」

「もう!?」


「ああ。おかげで


 あとは一番大事な決定のみ。


 ……さあここが重要だ。ゲームが始まれば花の交換はできない。

 ……誰に「太陽」と「毒」を託せばいい?


 本命はレーシェとケルリッチ。


 特にケルリッチはチーム『大天使アークエンジェル』の神呪も自分フェイ以上に熟知しているはず。その彼女が、「私に任せて頂くのは」と言う。


 その言葉の―― 

 どこまで裏を読むべきか――――




「決めた」 




 その場の全員に伝わるよう、フェイは小さく頷いてみせた。



 この選択が――


 神の知略を越えられることを願って。








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