バレンタインナイト@騎士は夜、突然に現れた

「二人だけでもう一軒行かない?」


「あ…でも…」


 押しに弱い私はその日、半ば無理矢理にバイトの飲み会へと駆り出され、飲み会後に二人だけで呑もうという先輩の誘いを断れずにいた。


「ほらまだ九時前だし、今日はバレンタインじゃん?大丈夫、最悪の場合はうちに泊めてやるって」


「でも…」


 泊めてやる…

 恋愛経験に乏しい私はその言葉にある種の恐怖すら感じた。


(ちゃんと断らなきゃ…でもどうやって…)


「ほら行くぞ!」


「あっ…ちょっ…」


 私が彼是あれこれと考えている間に先輩は私の手を取って歩き出した。

 その時だった。


「あれ?君ってお隣さんじゃない?」


「えっ…?」


「あ、やっぱそうだ。こんな時間になにしてんの?早く帰んないとお父さん超厳しいんでしょ?」


「え?あ……は、はい!先輩すみません! なので失礼します!」


 見知らぬ男性ひとが出任せを言って私を助けてくれた。

 これが、私が二十歳になってから初めてのバレンタインデーの夜の想い出だ。

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