道化を演じるアイツ@バレンタイン

「チョコ頂戴」


「は?バカじゃん」


「やっほ。チョコは?」


「なに寝ぼけてんの?」


「俺のチョコある?」


「今日ってエイプリルフールだっけ?」


(またやってる…)


 バレンタイン当日、アイツは女子に次々と声をかけてはチョコをねだっていた。

 去年と一昨年も行われた卒業別れを控えた中3になっても変わらなかった。

 毎年まいとし々々まいとし繰り返されるアイツの…朝の挨拶代わりにチョコをねだっては断られるを演じる。

 アイツのそれを知らない同級生はいない。

 それにどう返すかを相談する女子達もいた。

 でも…アイツは毎年、私にだけはそれを言わない。

 私の心は今年も空回りしたままでを終える…はずだった。


「…なあ、チョコくれよ」


「えっ!?」


 アイツは今年に限って私にを言った。

 戸惑いから言葉を失った私にアイツは真顔で言った。


「このまま卒業なんて俺は嫌だ。俺はお前のチョコが欲しい」


 私は自分のカバンに視線を送ることしか出来なかった。

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