第736話-2 彼女は風派とぶつかる

 離れた場所に自由自在に展開できる魔力壁。彼女ほどの魔力量と精度であれば、センターサークル位置から、試合場全てに任意に発現させることができる。魔力量の少ない碧目金髪の場合、精々数mと言った場所に、小楯程の物を数秒展開することができるに過ぎない。でなければ、あっという間に魔力が枯渇してしまう。


 しかしながら、それでも、任意に即座に展開できる魔術はこうした流動的な状況にとても都合が良い魔術なのである。


「ほ!!」


KONN!!


 自分の近くに球が来れば、捕球もせずに弾き飛ばしてしまう。これなら、密着されて身体強化で押し合う……といった戦い方をせずに済む事に加え、一瞬で球を送球することができるのだから、盤面を変えることも容易となる。捕球してから投げるという動作が一瞬で済むのであるから。


 



 第一Q、第二Qと、風派の攻撃手・遊撃手はその速度を生かして何度も木組城門を脅かし、得点を重ねていく。とはいえ、魔力壁で足元をすくわれる事を危惧しつつ、転んでもすぐ立ち上がる、あるいは背後の選手がフォローに入る事で勢いを殺さず波状攻撃を行い点数を重ねていった。


 それと同時に、リリアルの攻撃手も『魔力壁』と気配隠蔽を活用し、速度が上昇するほど認知力が追い付かない風派の選手の隙を突いて得点を重ねていく。


 身体強化の場合、視力や思考力も魔力で強化されるが、風の精霊魔術による加速は、身体のそれだけであるのが裏目に出ているのである。


『魔術師たる者、思考も加速させねぇとな』

「賢者だから仕方ないのではないかしら」


 魔力を纏い身体強化を行う魔剣士の消耗が大きいことは、この辺りに起因することになるだろう。身体強化による思考速度の向上による負荷の増大。心身ともに消耗速度が高まることになる。


 リリアルでは「只管ポーション」あるいは「只管魔糸紡ぎ」という荒行を行い、魔力の繊細な操作と継続を日々鍛錬している。少ない魔力を継続して長時間身体強化と並行して行う事で、負荷に慣れるという院長直伝の『根性論』で達成される成果物である。


 姉にはできないことも、彼女には幼い頃から課されていた日常の延長でもあるのだ。地味でつまらない事こそ、力になる。


「今まで、速度差で勝てたみたいだけど」

「まあ、同じ速度帯で思考速度も向上している相手をしたことないんじゃないですかぁ」

「ですわぁ」


 魔力壁で壁打ちしていただけの碧目金髪の鼻息が荒い。活躍していないわけではないのだが。威張り過ぎではないだろうか。


 第二Qが終了。得点は8-8のイーブンである。


「結構点とられてるっすね」

「すまん」

「いいのよ」

「そうそう。得失点差で言えば0-0と同じなんだから」


 正確に言えば、石組にとっては絶望的な展開マシマシであるのだが。


「後半は動こうと思うの」

「そっすか」

「あなたが前に出るのよ」

「うげぇっす!!」


 彼女が防護手の中央に陣取り、碧目金髪と『アン』の位置を入替える。遊撃と防護の中央をリリアルで固めることにするのである。


「これで、第三第四は無失点でいけるわよね!」

「まあ、はっきり言ってズルです」

「敵を直接攻撃しないのであれば、魔術の使用は有効ですもの」

「先生、向かい風が吹き続けるかもしれません」


 茶目栗毛が何やら聞こえてきたと伝える。大きな声で話しているようで、耳の良い者には「向かい風」「追い風」と言った言葉が聞こえたようである。


「そろそろお互いに仕掛ける時間なのでしょうね」

「こっちは失点ゼロ確定ですからぁ」

「はいはい、私たちで頑張ればいいってことなんでしょ?」

「そっすね。無理やり突撃してでも点を取るっすよぉ!」


  向かい風に逆らうように点を決められるかどうか。残りの時間の課題になるのだろう。


 



 第三Q、それまでの点の取り合いから一転、無得点のまま二十分の時間が経過する。追い風で嵩に掛かって攻め寄せる風派選手だが、むしろ、風のなかで身体強化に風の移動の補助を加えてさらに動きにくくなっているようで、彼女が適当に作り出す『魔力壁』に激突し転倒していく。


 シュートの瞬間も、同様であり、万が一放たれたとしても、門衛の前で瞬時に展開された魔力壁に弾かれてしまう。リリアル勢も攻める気が希薄でそのまま最終の第四Qへと突入することになるのである。


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