第五章 学院内対抗戦
第733話-1 彼女は兎肉を差し入れする
狩猟ギルドに「腕接ぎの指名依頼」を行い、依頼書を持ち帰った人狼。腕の無いのを見てとった漁師らは気を聞かせて急ぎ渡してくれたようであり、ギルドでの依頼の遣り取りも同様であった。特別会員への依頼だからでもある。
人狼の腕を接いでやり、その後、人狼は兎狩りへと出ていくことになる。勿論監視付き。休む間もなく働かせるのは、勿論、思いやりである。金がないのだから、働かねばならないのが人狼。
「行ってきますぅ」
「しっかり監視いたしますわぁ」
『リリも!!』
「……」
監視自体は、ある意味裏切り者に対する嫌がらせの範囲である。
とれた兎の数が揃えば、クラン寮生に差し入れするつもりなのだ。いよいよ、学院内対抗戦の予選が始まる。
予選日は各一日、二グループで各二試合を交互に行う。感じとしては、午前に各グループ一試合、午後にもう一試合ずつという感じになる。
翌日には、準決勝、敗者同士の三位決定戦、決勝の順で三試合。最下位は得失点差で試合無しで決定される。これまで、クラン寮は予選大差で負けているので、問答無用で最下位確定なのであろう。
「賢者学院も、学寮ごとの資金力の差が食事にまで反映されているから、あいつら、肉でなく魚ばかり食べているのよね」
魚というのは、位階の低い食事であるとされる。鴨や白鳥のような空を飛ぶ鳥の肉が最も良い肉であり、次に野生動物、牛、羊ときて動物のなかでも豚の肉が最も卑しいとされる。その更に下が魚である。
魚の中でも「赤身」の魚が上位で、「白身」の魚は下位とされる。
なので、この辺りでよく食べられるニシンやタラは下位の魚である。が、塩漬けではないのでまだましな評価になるのだが。
「帝国で食べた魚の塩漬けは……余りおいしくなかったわね」
「それはそうでしょう? とれた傍から内臓取り出して樽に詰めて、上から海水を掛けたものですもの」
塩=海水という何ともエコな仕様である。塩は内陸部では手に入りにくく希少な価値を持つ。なので、塩に高い税をかける領主がいることもままある。王国もそのむかし、ランドル・ネデルを服属させていた時代、百年戦争の少し前だが、王から評価されようとした総督が、塩に高率の税をかけた結果、叛乱が起こったことがある。
結果、『コルトの戦い』に至る一連の内乱が起こり、多くの貴族・騎士が都市民兵に殺され、ランドル・ネデルは王国から離脱することになった。百年戦争の時代、戦費を賄うために同様の事を行い、王家の信用を失墜させたこともあった。
善愚王……の虜囚の結果でもあるのだが。
彼女と伯姪、茶目栗毛と灰目藍髪の四人は、『木組』のメンバーとの最終打合せへと足を運ぶ。
リリアルと木組でそれぞれ半数ずつで一つのチームを組み、攻撃と防御を完全に役割分担することで、連携の不慣れさをコントロールするというのが基本的なチーム戦略になる。
「結構、走れるようになったっすよ」
「……誰?」
「アンっす。こっちが素なんす」
木組紅一点『アン』は「っす」少女(褐色肌)であった。最も若く、最も魔力量の多いアンは、木組が攻撃の場合、最前線で広く走り回り、足の遅い他の攻撃陣の移動時間を稼ぐ役割を担う。
防御側の場合、遊撃手の位置に入り、前後に大きく動いて、走力の足らない防御手の木組メンバーのフォローをする事になる。
役割分担した場合、どうしても縦長の布陣になり、フィールド中央に人が集中し、左右に隙間ができてしまう。そのスペースを潰すという役割を任されることになるだろう。
見れば、数日前よりも格段に纏い方が良くなっている。彼女の姉のような、無駄魔力の浪費が減り、必要十分な魔力量で継続して身体強化と魔力走査も両立できていると思われる。
「これ、どのくらい継続できるのよ」
「そっすね、三『
一クウォーター(以下1Qと略)はニ十分であり、それを四回重ねて一試合となる。元々木組メンバーは、魔力量と体力を勘案して1Q毎に交代させるつもりであった。1Qと3Qに出る選手と、2Qと4Qに出る選手に二分してそのメンバーを固定して練習をさせている。
アンならば、1Qと3Qに最後4Qも出場できる。あるいは、1Q2Qと出て、インターバルを置いて4Qとなるだろうか。
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