第703話-1 彼女は三等賢者と知り合う
「オイラとキャラが被ってるんだよぉ」
「うーん、ダンの方がいい男だと思うぅ!」
「ですわぁ」
「そりゃねぇよ、マイ・スウィーティー!!」
いや、元は山羊頭だし、ジンガイなので、ダンの方がよく見えるのは仕方がない。
兎馬車の馭者台にはルミリが座り、ダンが荷台に座っている。他は、皆、
徒歩である。
「ちっくと寄りたいんやが」
ダンは
「ちょうどいいわね」
「ええ。これで依頼を済ませることができるわ」
「ほりゃあどういうことなが」
ダンの疑問に、彼女は
「まっこと変わっちゅうなぁ」
「はぁ」
ダンに言われる迄もなく、変わり者である事には自信がある。貴族が臨時雇いの手紙の配達員を務めているのだ。とはいえ、彼女の感覚からすれば、数年前薬師ギルドに傷薬を作って治めていたころと大して変わりはない。できる仕事があるのなら、ついでにしてしまおうという気になる。
貴族らしくはないが、彼女らしいのである。そうでなければ、孤児を集めて学院で魔力を扱える冒険者を育てよう等と考えるはずがない。孤児どころか、精霊や妖精迄拾い集めてしまっているではないか。
『それがお前なんだから仕方ねぇ』
仕方がないとはどういう意味だと思わないでもないが、長い付き合いの『魔剣』や家族から似たようなことは何度も言われている。むしろ、誇らしくさえあると言えるだろう。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「あら、ダンさんお久しぶり。これから島に戻るのかい?」
「ほがなところだ」
狩猟ギルドの受付はダンと顔見知りのようで、「ちょっと待ってて」と言うと、奥へと入っていく。しばらく待っていると、ひもで縛った手紙の束がドスンとカウンターに置かれる。
「結構あるがや」
「二週間くらい誰も来なかったのよ」
手紙が一ケ月くらい届かないことは学院に関して珍しくないのだろう。彼女は、依頼された手紙を渡し、完了のサインをもらい幾ばくかの依頼料を支払ってもらう。
ダンは、小銭をもらう彼女を不思議なものを見るような眼で見ている。確かに、はした金だが依頼料は依頼料。ただ働きをするのはよろしくない。
「もらうもがをもらうのは当然」
うんうんと何か納得したかのようにうなずいている。
このペースでいけばそのまま、ディズファイン島に今日中に着けると彼女は考えていたが、ダンはそうはいかないという。「この時間に島に向かうと、今日は潮が満ちて道がない。今日はここで一泊するべきだ」というのである。
「けど、泊れる場所がないでしょう?」
「なんらぁなる、なんらぁするち」
ダンが何とかしてくれるらしい。賢者学院はこの地の防衛の一部を担う戦力なので、この地を治める貴族もその代官も粗雑には扱えないというところだろう。彼女らは賢者学院の『客』であるから、相応に扱わせたいというところか。
館の主は不在であったが、留守居の家宰は「離れの客間をご利用ください」
とダンの願いを快く受け入れ、彼女らも「客の客」ということで、相応にもてなす用意をしてくれた。
「顔が利くのね」
「めぇった時はお互い様やき。そうじゃなければ、見ふてられることになるが」
なるほど。貸し借りを常に作りながら、たがいに逃げ出しにくい関係を構築していくということなのだろう。集合離散が常の辺境においては、そうしたことも大切なのだろう。
どのような客なのかという質問に、ダンは「リンデから来た巡礼者」とだけ館の者には伝えてある。情報に不足があるのは虚偽ではない。
「離れ」と言っても、六角形に組まれた三階建ての城館の一角であり、母屋とは回廊で接続されている城塞の中である。古い城塞の中庭に城館を建てたり、壁の一角を城館の壁と共有させたりといった建物が多いのだが、この城塞は建物を防御施設としてそのまま利用するように作られている比較的新しいものだと思われる。
リリアルの王都城塞もそれに似た建物だと言えるが、こちらはより規模が大きい半面、堅牢さではリリアル城塞に劣るのは、人造岩石製ではなく煉瓦と漆喰で作られているからだろう。
「人造岩石の方が堅牢なのよね」
「けれど、こちらのほうが落ち着くわ。城館と城塞の差でしょうね」
大砲の砲弾で煉瓦が破砕されたとしても、人造岩石ならば削れる程度で事が済むだろう。だが、岩の中に住んでいるという雰囲気は、長くいたいとは思えない。やはり、木のぬくもりのある内装が好ましいであろうし、石積みの主塔の城館が廃れた理由も住みにくいからだろう。
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