第572話-2 彼女は二体のレイスの戦いを見る
三体目のレイスのいる小部屋に向かう。その前に、伯姪に魔力を補充するポーションを飲ませる。
「……不完全燃焼だわ」
「まだ吸血鬼が残っているわ。そちらの方が簡単よ」
「まあね。首を刎ねればいいんだから。でも、聖騎士の装備だと、梃子摺るのは同じかもしれないわね」
柄頭の魔水晶を狙うという技は使えそうにもない。魔力で身体強化した者同士、あとは剣技と剣技の戦いになるだろう。聖騎士の剣をリリアルでもっとも理解しているのは、聖エゼル海軍を持つニースで育った伯姪であろう。それ故、吸血鬼相手でも遅れは取るまい。
「気が重いぜ……」
「そうでしょうか? ヒントはいただきましたよ」
焦燥感溢れる『戦士』とことなり、『女僧』はどこか余裕を感じさせる表情である。何か掴んだのだろうか。
「最後はお二人に任せます。力を見せてください」
「はい」
「お、おう。そだな、なにか助言する事はないか」
伯姪と彼女に、『戦士』が問う。
「実体のないものは魔力で、実体のある物はメイスで叩くといったところね」
「魔力が無ければアンデッドは倒せません。ですが、武器を破壊することはできます。メイスは何のために騎士が装備したのか考えれば、答えは自ずと出るでしょう」
『戦士』は「こんな時まで謎々か」とぼやいていたが、やるべき事はどうやら理解できたようだ。あまり余計なことを考えない方が良い。
やはり同じように、朧げに佇む聖騎士の姿がみてとれる。近づいてきたのに気が付いたのか、こちらに顔を向ける。が、その顔はひどく険しい表情をしている。
『こいつは誰だろうな』
「当ててみましょう」
彼女は宮中伯から渡された王都管区本部に持ち込まれた歴代総長のリストの中から、誰かを推測する。
「貴方の名前はトリム・ペローではありませんか」
『如何ニモ。我名ハとりむ・ぺろー也』
第二十代総長『トリム・ペロー』は、既に聖王国がサラセンとの戦いで苦戦をし続け、内海沿岸の都市をかろうじて確保するしかできない時代の総長であった。その最後は悲惨であり、自身が立て籠もった城塞にサラセン軍を引きつけつつ、教皇と諸国の王に援軍を要請するも、すべて無視された結果、陥落した城塞でサラセン軍により処刑された。
つまり、見捨てられた修道騎士団を象徴する存在であり、苦悩の表情を抱えている理由でもある。
「それで、何故、ここに」
『コノ城塞ガ我ラガ聖騎士団ノモノデアルカラダ』
その昔、この場所は王都の「郊外」であり、修道院か礼拝堂であった場所であった。その頃、王家から寄進を受けて修道騎士団が王都管区本部として構築したものだ。それから既に三百年以上が経過し、今ではこの地は王都に組み込まれている。その認識は正しくないのだが、そんな事を死霊に説明しても是非に能わずである。
「助けに来なかったことが不満で死霊となったのかしら」
『否』
「ではあなたはなにしに王都へ来たのかしら」
『聖騎士団ヲ護ル為』
死して尚、見捨てられて尚、修道騎士団を守ろうとする姿勢は立派な心掛けである。但し、既にそんなものは存在しない。王都に害をなす仕掛けの一部に利用されているに過ぎない。
「お二人とも、この高貴な聖騎士を送り出してください」
「……畏まりました閣下」
「え、そんなの……」
「無理かどうかじゃなくって、やるかやらないかでしょ!!」
潔い『女僧』の答えと反する『戦士』のボヤキに、伯姪が「がっかりさせないでよね」とばかりに檄を飛ばす。いや、自分に出来ることとできない事嗅ぎ分けるのもベテラン冒険者の嗜みなのだと言いたい。
狭い空間の為、二人で包囲するように立つことは出来ない。交互に入れ替わりながら、攻撃を繰り返し消耗させるという事になるだろう。
「俺から」
「いいえ。私から入ります。魔力持ちの方が有利ですから」
「……なら……頼んだ」
いつもなら先頭に出るのは『戦士』の役割りであり、『女僧』はそのサポートを務めることがおおかったのだが、今回はその立場が逆転する。とはいえ、『女僧』の魔力量は伯姪よりはるかに低く、二人掛でも苦戦は必至だと彼女は考えている。
「大丈夫かしら」
「冒険者の手筋を見せて欲しいのよ。二期生三期生の育成のためにね」
「ああ、なるほどね」
魔力量が少ないか無い者しかいない二期生三期生にとって、彼女や一期生冒険者組の戦い方は参考にならない。薬師組は『魔装銃兵』であり、基本は薬師であるからこれも同様だ。薬師ばかりのリリアルになってしまう。
ラウンドシールドを体の前に構え、『女僧』はゆっくりと前進する。そして、その盾めがけて振り下ろされる剣に向け、メイスを叩きつけた。
GAGIINN!!
『グフゥ』
剣をメイスで弾き上げられ、レイスはたたらを踏んだように見える。
「良い選択だわ」
「ええ。柄頭に届かないのであれば……剣身を圧し折ればいいのよ」
レイスの宿る剣を破壊すれば、死霊としての活動も制限されるだろうという読みからの反撃。そしてそれが裏目に出なければいいのだが。
「いや、あれなら何とかなるか俺でも」
剣を圧し折る為の攻撃。前に出る『戦士』の方が向いていると、ベテラン冒険者は呟くのであった。
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