第567話-1 彼女は再び王太子宮へと足を向ける
「そのメイスかっこいい」
「だろう。この小さなヘッドにトゲトゲが付いているところが……殴りでがある」
「両手で握れるところがナイス」
「おお、そっちの赤い嬢ちゃんもそんな感じだろ?」
「力一杯殴り隊なら当然の仕様だよ!!」
赤毛娘と赤目銀髪は、『戦士』の魔銀鍍金製魔水晶封印型ヘッドのメイスがとても気になるらしい。二人とも魔力が潤沢なので、封印部分はどうでもいいようだが。
因みに、『力一杯殴り隊』の隊長は彼女の姉らしい……聞いてないのだが。
「トゲトゲが良いと思う」
「いや、意外とダメージ入らねぇんだよ。ウォーハンマーみたいな方が本来いいんだろうけど、魔水晶使うからこんな感じになるんだよな」
「まあ、そうだな」
青目蒼髪が口を挟む。魔力持ちなら、突きも打撃も引っ掛けるも自在な片手持ちのウォーハンマーや赤目蒼髪の『ブージェ』のような装備が好ましい。しかし、魔水晶を内部に仕込むには『厚み』が必要になる。ハンマーやフックではその大きさを確保できない故に、メイスとなっているのだ。
「小さめのヘッドだし、護拳がついているから鉄鞭みたいに使えるから、剣を圧し折ったりするのもいいかもしんないな」
「そうだね。剣を折るっていいかも!」
「剣を斬れると思う」
「確かに」
赤目銀髪と赤毛娘、青目蒼髪がワイワイと武器談議に花を咲かせる。魔力持ちなら、普通の剣をメイスのフィンで叩き斬るくらい難なくこなせる。魔力で勝れば、魔銀の剣でも可能である。赤毛娘や姉なら、それはかなりの確率で達成できるだろう。力いっぱい殴るだけで。
「では、王都に出かけてきます」
「今晩は子爵邸に泊まるから、あとはみんなでよろしくね」
「「「「はい!!」」」」
連合王国への渡航を踏まえて、彼女と伯姪は揃って学院を不在にする機会を増やしていくと伝えてある。一期生は、それぞれが院長・副院長のいくばくかの役割りを代替し、務めることになるということで、少しずつ仕事を任せるようにしていくことになった。
いきなり不在になってから任されるより、今の時点で問題点や不明瞭な点をはっきりさせる為にも、各自が役割を果たしていくことになる。茶目栗毛は今回同行しないが、仕事が無いので連合王国語やあちらの情報の整理などを委ねることにしている。
茶目栗毛はネデル語も連合王国語も帝国語もある程度読み書き会話まで可能なのである。暗殺者養成学校は優秀者を揃えていたという事だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
魔装の二輪馬車で王都へと向かう。いきなり王太子宮に向かうのではなく、彼女は騎士団に顔を出す事にしていた。王宮では宮中伯が彼女の想定する不在時の事件発生の可能性について伝えていたが、騎士団には直接話をしていなかった。
さらに言えば、今回の討伐がきっかけで、前倒しでアンデッドが王都に溢れる事態もないとは言えない。心づもりしてもらわねばならないであろうし、魔銀剣や魔銀鍍金のメイスを用いることができる騎士には、事前に通達してもらいたいと考えていた。
「余計なスイッチ入れちゃうかもしれないものね」
「姉さんでもあるまいし、縁起でもないわ」
彼女の姉は、敢えて虎の尾を踏む傾向がある。アンデッドが湧き出す魔水晶くらい、敢えて作動させるかもしれない。迷惑千万!!
従者扱いの『戦士』『女僧』を待合に残し、彼女は騎士団本部の奥へと足を進める。
騎士団本部には前日に先触れを出しているので騎士団長と王都に詰める各部隊の隊長クラスが揃っていることを確認。万が一のことと断りを入れた上で、これから王太子宮の再調査に入ることを彼女が告げた。
「既に、王宮には私見を伝えております」
そう断りを入れた上で、これまで王国で起こってきた出来事について紐づけて説明をしていく。背後にいるのは連合王国・ヌーベ公、そして修道騎士団の残党とその遺物。話が進むにつれ、騎士団長以下幹部たちの顔が険しさを増す。
「それで、我々に何をして貰いたいんだ」
「正直、近衛騎士が管理しているとはいえ、彼らの戦力で王太子宮から魔物があふれ出た場合、対応することは不可能であると考えます」
近衛騎士の仕事は王族の警護。そして王宮の警備にある。王太子宮も王宮の一つであるが、あくまで『留守番』役を務めているにすぎず、本来の近衛は王太子に同行し南都に居る。あとは、警備の衛兵が配置されているに過ぎない。アンデッドの群れがあふれ出たとするなら、即座に制圧され王都の中にそれが出てくるだろう。
「これから、王宮へ向かい、王太子宮の警備を一時的に騎士団の元に預からせてもらうように陛下に進言する。副元帥閣下も同行してもらおう」
私見も私見、憶測も憶測。何事も無ければ、ただのから騒ぎになってしまう。根拠はあるが証拠は皆無なのだから。
「しかし、それでは……」
「俺から陛下に副元帥閣下の予想を説明する。俺も宮中伯アルマンも同意したって言えば陛下も納得する。それで駄目なら……」
「駄目ならば……どうしますか」
「その時は、前子爵閣下、つまり、お前のお婆様を呼び出すというさ。多分、無条件に承認されるだろう。陛下を説得する最大の材料だ」
王都を守る家の前当主にして、国王陛下は頭の上がらない一人。今一人は王妃殿下。今は亡き、先の王太后陛下もその一人である。
「正直、何もなければただの演習みたいなもんだ。リリアルの首魁二人が王弟殿下のお供で渡海するんだろ? あの人造岩石の要塞が王都に建っているとしても、正直、不在の間に事件が起こったらと思うと……」
「それは、残ったリリアルの騎士達で対応できると思います」
「……だといいんだが」
騎士団長達の醸し出す不安げな空気を、伯姪が「子供に頼るなんて大人としてどうなんでしょうね」と言い返し、さらに「不安なら、前の辺境伯に伝えておきましょう」と加えると、全員の顔が蒼白になる。
「い、いやそういう意味ではない」
「勿論、王都と王国の治安は我等が責任をもって守る。自信もある」
「ニースの御老人にご足労いただくまでもありませんぞ!!」
どうやら、以前に特別に「稽古」を付けられたことがあり、若かりし頃、当時若手騎士であった今の幹部たちは相当痛い目を見たようである。法国戦争の際には、王国の主力として活躍したのであるから、そうした機会もあったのだろう。
「けど、お爺様は私達不在の間、リリアルに滞在のご予定だもの」
「……そうなのか……いや、我々としても心強い! なあ、みな」
「「「「そ、その通りです!! 騎士団長!!」」」」
でも、会いたくは無いようである。
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