第566話-2 彼女は二人の装備を確認する
『女僧』のメイスの攻撃、『戦士』の盾の防御も問題なく確認できたので、『戦士』のメイスの改修が終了次第、王太子宮へ向かう事を決めた。『戦士』のメイスは、護拳の上の部分にもスティレットのように握れる加工を施す事にした。両腕で突き刺し殴り倒す状況も想定してだ。
防具に関しては、必要であれば胸当や脛当など防御力の高いものに替えるなら学院が提供すると伝えるが、防具は馴染んだものの方が良いという事でいつもの装備をそのまま使う事にする。
「タイマツ持ちは私の仕事でしょうね」
「そうですね。戦闘で盾を腕に通して使える方にお願いすることになりそうです」
「魔力の炎では駄目なの?」
伯姪の問いに、彼女は「気配隠蔽」を二人は使うので、その手は使わず存在を隠しておく方が良いだろうと伝える。敵は『戦士』『女僧』の二人だと錯誤してくれれば、こちらの仕掛けが有利に働くと彼女は考えていた。
「つまり、俺達は囮を兼ねるってわけだな」
「四人を襲うより、二人を襲う方が戦力の逐次投入を誘えると思います。最初から包囲されるような状態は避けたいので」
「それはそうですね。あなた方の魔力を感じれば、最初から総力戦を挑まれてもおかしくありませんから」
「つまり、ギリギリまで俺たち二人だと思わせた方が……」
「かえって安全なのよ。たぶんね」
「おっかねぇ探索になりそうだ」
『戦士』は肩をすくめ、おお怖いとばかりにお道化たふりをする。
「ヤバ目の相手なんだろ?」
「恐らく。修道騎士団の騎士達のアンデッドが相手になると想定しています」
「……本当にですか」
「私たち、処刑された総長と王都管区長のアンデッドと戦ってるから。恐らく、戦死した歴代総長の遺体を加工して、アンデッド化させていると思ってるの」
「そんなものが複数王都に現れたら……」
「王都は地獄になるでしょうね」
ある意味、地獄行きか否かを審査する『煉獄』と王都が化すかもしれないと彼女は考えている。
「試されてるな」
「王都が? それともリリアルが?」
煉獄ならば、その先は天国へと通じているはずだ。ならば、それでも構わないのではないだろうか。
「神様は常に人間を試しているのではありませんか」
「ちょっと試されすぎよね私たち」
伯姪が冗談めかして言うが、確かに王国が神に試されていると言ってもおかしくはない。百年戦争はそういう意味でも王国の存在が神に試されたと言えるかもしれない。連合王国は神の御使ではないだろうが。
「人を誘惑するのは悪魔の仕業。なら、彼の国にそそのかされている人間は悪魔にそそのかされているということかもしれませんね」
『女僧』はそう感じているのだという。帝国からやってきて王国を見ると、そう見えるのだという。
「そもそも、アンデッドを使って王国を攻撃している時点で、そいつら絶対に『悪』じゃない?」
死者を利用し、生者を害しようとする行為は確かに悪……悪魔の所業かもしれない。
「死んでまで利用されるのはちょっとかわいそうよね」
リリアルにもサブローやガルム達がいるのだが、利用しているわけじゃないよ!本人たちが納得して世を去れるまで、一時的に居場所を設けているだけである。そもそも、アンデッドを作り出したのはリリアルではない。だから、利用しているわけではない。たぶん。
「アンデッドは経験があまり無いからな」
「オーク以上オーガ以下ってところよ」
「そりゃ難敵だ」
伯姪の雑な説明に『戦士』が渋面を作る。オーガと対峙する機会などそうそうない。腕力だけならジジマッチョくらい強いと思えば理解できるだろうか。
「直接触れられると、意識が混濁したり気絶することもあり得ますね」
「……オーガに殴られた方がましってくらいか」
「殴られたら死にますよ普通」
「だよな」
スケルトンやアンデッド・ナイト程度であればそこまでではないが、想定されるのはワイトかスペクターか。あるいは、未だ遭遇してないアンデッドかもしれない。
「最初の一撃を凌いでもらえたなら、なんとかなるでしょう」
「そりゃそうだ。とはいえ、それなりの装備も与えられたんだ、そう簡単には死なないだろうさ」
「ベテランの経験値の差というものをそろそろ見せてくださいね」
「おいおい、いつも見せてきただろ、見せてるよな俺」
『女僧』に揶揄われた『戦士』は、何度も彼女たちに経験の差を見せてきたと言い募るのであった。
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